相続で確定申告|準確定申告だけじゃない。相続税と所得税、申告方法と手続きの流れ
遺産を相続した人の中には、「財産が増えたから、確定申告をする必要がある?」と悩まれる方もいらっしゃるかもしれません。これは、相続した財産が、給料や事業収入と同じ「所得」だと勘違いしてしまうからです。
基本的には相続した遺産には相続税が、所得には所得税が課されます。ただし、相続の際に所得税を申告しなければならない場合もあります。
例えば、準確定申告においては、確定申告をする必要がある人が亡くなった場合、相続人全員が連名で死後4ヵ月以内に故人の住所の管轄の税務署で確定申告をしなくてはなりません。
この記事では、確定申告と相続税の申告はどう違うのか、相続のどのような場合に確定申告が必要なのか、確定申告の期限や手続きがどのようになっているのか、についてご説明します。
目次
確定申告と相続税の申告はどう違う?
まず、確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間の所得(勤労、事業、資産等によって得た収入)に対する所得税および復興特別所得税、消費税の税額を、税務署に申告して納付する手続きです。課税対象になる収入を得ている人が、適正な税金を納付するために、その金額を「確定」して「申告」する制度が、確定申告というわけです。
一方、相続税とは、亡くなった人から遺産を相続した際に、その遺産総額が基礎控除額を超える場合には、超える分に対して課税される税金です。したがって、遺産総額が基礎控除額以下ならば、申告自体も必要がなく、納税も必要ありません。 相続税の基礎控除は、以下の計算式で算出されます。
したがって、例えば相続人が3人の場合は、遺産が4,800万円を超えていれば相続税の申告・納税をする必要があります。相続税の申告・納税の期限は、被相続人の死亡を確認した日の翌日から10ヵ月以内です。
相続財産は所得ではなく継承という扱いなので、確定申告の必要はありません。もし、相続財産に相続税と所得税の両方が課されると二重課税になってしまうため、所得税については対象外となります。
ただし、遺産を相続したことにより必要になる確定申告があります。以下、詳しく説明していきます。
相続の際に必要になる場合がある、税の申告
相続の際に必要となることがある税の申告には、相続税の申告以外に主に次の5つがあります。
- 亡くなった人の所得にかかる、所得税の準確定申告
- 収益を生む相続財産から生じた所得にかかる、所得税の確定申告
- 相続財産を売却して生じた譲渡所得にかかる、所得税の確定申告
- 生命保険金にかかる、所得税の確定申告
- 相続財産を寄付して寄付金控除を受けるための、所得税の確定申告
以下、1~5について解説します。
1.亡くなった人の所得に対する準確定申告
準確定申告とは
確定申告が必要な人が亡くなった場合、相続人は故人の代わりに死後4ヵ月以内に税務署で所得税の申告をおこなわなければなりません。これを準確定申告といいます。申告できるのは、相続人や包括受遺者です。相続人が複数人いる場合は連署で準確定申告をおこなう必要があります。
包括受遺者とは、財産を漠然とした割合で遺贈される人のことをいいます。これに対し、特定の財産を指定して遺贈することを特定遺贈といいます。
準確定申告では、死亡日が3月16日から年末までの場合は、1月1日から亡くなった日までの所得を申告します。
3月15日までに亡くなり、前年分の確定申告をしていなかった場合は、前年分の申告も必要です。なお、3月15日が土・日曜日だった場合は、次の月曜日が確定申告の期限となります。
準確定申告が必要なケースは、次のような場合です。
準確定申告が必要なケース
- 個人で事業をおこなっていた
- 不動産を賃貸していた
- 公的年金を受給していた
- 多額の医療費を支払っていた
- 2ヵ所以上から給料をもらっていた
- 給与や退職金以外の所得があった
- 給与所得が2,000万円を超えていた
公的年金による収入が400万円以下で、他の所得も20万円以下あれば、確定申告は必要ありません。ただし、確定申告をおこなうことで、源泉徴収された所得税が還付される場合もあります。
なお、準確定申告では通常の所得税の確定申告と同様に、配偶者控除・扶養控除、社会保険料・生命保険料・地震保険料控除、医療費控除などの所得控除を適用することができます。ただし、対象となるのは死亡日までに支払った分までとなります。
所得税の準確定申告の手続き
所得税の準確定申告の手続き | |
---|---|
提出先 | 故人の住所地の所轄税務署 |
手続きする人 | 相続人、包括受遺者 |
必要なもの |
|
期限 | 相続開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内 |
準確定申告の必要書類
準確定申告の場合も、確定申告と同じ用紙を使用し、揃える書類も確定申告とほぼ同じです。確定申告書にはAとBがありますが、Aは主にアルバイトやパートの方が対象で、Bはどなたでも利用できるので、Bを使用すれば問題ありません。
準確定申告の場合、用紙の表題の確定申告の先頭部に「準」という文字を付け足します。また、申告者の氏名欄には、被相続人の氏名「被相続人 〇〇」の他に、相続人代表者名「相続人 〇〇」と書きます。
また、相続人が複数の場合には、申告書とともに確定申告書付表を提出します。ここに相続人全員の署名捺印と、相続分の割合、納付税額を記入します。
記載例は国税庁のホームページから「死亡した方の準確定申告をする場合の記載例」をご確認ください。
2.収益を生む相続財産から生じた所得にかかる、所得税の確定申告
賃貸アパートや駐車場などの収益を生む財産を相続した場合には、その収益に対して所得税の確定申告をおこなう必要があります。
1月1日から相続が発生した日までに得た収入は、被相続人の収入として準確定申告をおこないます。相続発生日以降に発生した収入は、その遺産を相続した相続人の収入として確定申告をおこないます。
相続人が複数いる場合は、相続開始後から遺産分割までの間の収入については、各相続人がそれぞれの法定相続分に応じて取得し、各相続人がそれぞれの所得を確定申告します。
3.相続財産を売却して生じた譲渡所得にかかる、所得税の確定申告
譲渡所得とは、一般的に、土地、建物、株式、貴金属、ゴルフ会員権などの資産を売却することによって生ずる所得をいいます。ただし、事業用の商品などの棚卸資産や山林などの譲渡による所得は、譲渡所得ではなく事業所得等になります。
例えば、被相続人が土地を購入したときの金額よりも、相続人がその土地を売却したときの金額の方が高い場合には利益が生じます。このような場合、その利益に対して所得税と住民税が課され、これらを総称して譲渡所得税といいます。
譲渡所得にかかる所得税は、売却した翌年に管轄の税務署で確定申告をして納税する必要があります。
なお、所得税の確定申告をすれば住民税については改めて手続きする必要はなく、給与所得者の場合は勤務先が給与から天引きして納付してくれます。自営業者などは、申告した年の5月以降に市町村から納付書が送付されます。
また、譲渡所得税の対象となった相続財産について相続税を支払っていた場合には、取得費加算の特例を適用して、譲渡所得税を減額させることができます。特例を受けるためには、その財産を、相続税の申告期限から3年以内に売却し、必要書類を添付して確定申告をする必要があります。
譲渡所得税の計算方法
ここでは、特に、土地や建物についての譲渡所得について説明します。
課税対象となる譲渡所得の金額は、次のように計算します。
計算式内の金額や費用は以下のようなものをさします。
収入金額
土地や建物を売却した金額。
取得費
土地や建物を購入した金額と購入費用。 土地や建物の購入代金や建築代金、購入手数料、設備費や改良費などが含まれます。
なお、建物の取得費は、購入代金又は建築代金などの合計額から、経過年数に応じた減価償却費相当額を差し引いた金額となります。
譲渡費用
土地や建物を売却するためにかかった費用。 名義変更料、仲介手数料、借家人に支払った立退料、建物解体費、売買契約締結後に支払った違約金などが含まれます。
特別控除額
- 収用等により土地建物を譲渡した場合:5,000万円
- マイホームを譲渡した場合:3,000万円
- 特定土地区画整理事業等のために土地を譲渡した場合:2,000万円
- 特定住宅地造成事業等のために土地を譲渡した場合:1,500万円
- 平成21年及び平成22年に取得した土地等を譲渡した場合:1,000万円 (土地建物の保有期間が5年を超える長期譲渡所得の場合に限る)
- 農地保有の合理化等のために農地等を譲渡した場合:800万円
※特別控除額の最高限度額は、年間の譲渡所得全体を通じて5,000万円です。
譲渡所得税額は、次の計算式で算出されます。
譲渡所得税は、他の所得と分離して所得税と住民税が課税される、分離課税の税率となります。対象となる不動産の用途や所有期間により税率が異なります。
譲渡所得税の税率は、長期譲渡所得と短期譲渡所得とで異なります。譲渡した年の1月1日現在で、所有期間が5年を超える場合は長期譲渡所得に、5年以下の場合は短期譲渡所得になります。保有期間は、相続時からではなく故人がその財産を取得した日から数えます。
譲渡所得の税率
- 短期:5年以下
- 居住用:39.63%(所得税30.63%・住民税9%)
- 非居住用:39.63%(所得税30.63%・住民税9%)
- 長期:5年超
- 居住用:20.315%(所得税15.315%・住民税5%)
- 非居住用:20.315%(所得税15.315%・住民税5%)
- 長期:10年超所有軽減税率の特例
- 居住用:課税譲渡所得6,000万円以下の部分14.21%(所得税10.21%・住民税4%)/課税譲渡所得6,000万円超の部分20.315%(所得税15.315%・住民税5%)
- 非居住用:20.315%(所得税15.315%・住民税5%)
※上記税率には、復興特別所得税として所得税の2.1%相当が上乗せされています。(平成25年から令和19年まで)
【例】20年前に2,500万円で取得した自宅を3,000万円で譲渡し、その譲渡費用が150万円、減価償却費50万円だった場合
{収入金額3,000万円-(取得費2,500万円+譲渡費用150万円-減価償却費50万円)}×14.21%=譲渡所得税額56万8,400円
取得費加算の特例とは
取得費加算の特例とは、相続した土地、建物、株式などに相続税が課されていて、相続後一定期間以内に売却した場合に、譲渡所得から相続税額の一部を差し引く制度です。
譲渡所得税は、上述のとおり次の計算式で算出されます。
この取得費の部分に相続税の一部を加算することで、税負担を軽減します。
【例】被相続人から評価額5,000万円の土地と5,000万円の現金、合わせて1億円を相続し、相続税は2,000万円でした。その後、この土地を5,000万円で売却しました。先祖代々の土地がもともといくらで取得したものかは不明です。
相続税2,000万円×土地5,000万円÷相続税の課税価格1億円=取得費に加算する相続税額1,000万円
{収入金額5,000万円-(取得費5,000万円×5%+取得費加算額1,000万円)}×20.315%=761万8100円
※被相続人の当初取得価額が不明の場合は、売却価格の5%を概算取得費として計上します。
特例を受けるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
特例適用要件
- 相続や遺贈によって財産を取得した人
- その財産を取得した人に、相続税が課税されている
- その財産を、相続発生の翌日から相続税の申告期限の翌日以降3年以内に売却している
4.生命保険金にかかる所得税の確定申告
5.相続財産を寄付して寄付金控除を受けるための、所得税の確定申告
こちらの確定申告は必須ではありませんが、申告することで控除が受けられ節税対策になります。
相続財産を寄付して相続税の申告時に申告すると、相続税の対象としない特例があります。さらに、所得税の確定申告をおこなえば、その相続人に関わる所得税からも一定額を控除する寄付金控除が適用されます。なお、手続きの際は、寄付金の領収書や一定の証明書などを添付して申告する必要があります。
相続税と所得税の二重の控除を受けることができますが、寄付をした人に寄付先から特別な利益が及ばないように、寄付先などの要件を満たす必要があります。寄付をする先は、国や地方公共団体もしくは、ユニセフや赤十字等の特定公益増進法人などの決められた寄付先でなければいけません。
寄付金控除額は、次のように算出されます。
- その年に支出した特定寄附金の額の合計額
- その年の総所得金額等の40%相当額
確定申告の方法
確定申告の手続きの方法や流れ、必要書類などについて説明します。
確定申告の3つの方法
- 1.税務署の相談窓口でおこなう
- 確定申告の時期になると、各税務署に申告書作成会場などが開設されます。そこに必要書類などを持参すれば、職員の方に教えてもらいながら確定申告をおこなえます。
- 2.国税電子申告・納税システム e-Taxを利用する
- 国税庁のHPより、確定申告書を作成することができます。ガイダンスはありますが、ある程度知識がないと難しく感じる人も多いと思います。
- 3.税理士に依頼する
- 手間がかからず安心な反面、手数料が5万円程度かかるので、扱う金額が大きい場合や時間がない場合などに利用するといいでしょう。
確定申告の基本的な流れ
- 必要な書類をそろえる
- 確定申告書類を作成する
- 確定申告書などを提出する
- 納税する
確定申告の必要書類など
確定申告の必要書類
確定申告に必要なもの | |
---|---|
必ず提出する書類 | 確定申告書、収支内訳書/青色申告決算書 |
申告書の作成に必要なもの | はんこ、口座情報、帳簿、領収書・レシート |
必要に応じて提出するもの |
源泉徴収票、医療費控除の明細書、社会保険料控除証明書、寄附金受領証明書など |
提出時に必要なもの | マイナンバーカードまたはマイナンバー通知カード、マイナンバーが掲載されている住民票の写しなど |
確定申告書類の作成
確定申告書類の作成はご自身でもできますが、心配な場合はコストを確認の上、税理士に依頼するのもいいでしょう。
- 確定申告ソフトを使って自分で作成する
- 確定申告書等作成コーナーを利用する
- 税理士に依頼する
確定申告書などを提出する
提出方法は、以下の4つです。
- 税務署に直接持参する
- e-Taxを利用する
- 郵便または信書便で税務署へ郵送する
- 税務署の時間外収集箱へ投函する
納税する
確定申告書等の提出が終わったら、確定申告の期限内(2月16日~3月15日)に納税すれば確定申告手続きは完了です。
納付方法
- ダイレクト納付
- インターネットバンキング等を利用
- クレジットカード納付
- コンビニ納付
- 振替納付
まとめ
原則的に、相続した遺産には相続税が、所得には所得税が課されるので、遺産が基礎控除を超えているのであれば相続税の申告と納付をする必要がありますが、確定申告の必要はありません。ただし、相続の際に所得税を申告しなければならない場合が5つありました。
- 準確定申告
- 収益を生む相続財産の確定申告
- 譲渡所得の確定申告
- 生命保険金の確定申告
- 寄付金控除を受けるための確定申告
確定申告はご自身でおこなうこともできますが、不安な場合は税理士に依頼することをおすすめします。いい相続では、お近くの専門家との無料相談をご案内することが可能ですので、相続の際の確定申告でお困りの方は、お気軽にご相談ください。
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