農地の相続税には、納税猶予特例の 活用がおすすめ!
- 農地の評価方法は4種類の区分によって異なり、相続税評価額が高額になる場合もある
- 農業を継続する相続人は、要件を満たせば相続税の納税猶予の特例が受けられる
- 納税猶予特例の適用を受ける際には充分な検討が必要
農地を所有している人に相続が発生した場合、農地にかかる相続税の納税が猶予される特例があることをご存じでしょうか?この記事では、農地の相続税評価の方法、納税猶予の特例について紹介します。
農地の区分と評価方法
農地は、農地法などにより宅地への転用が制限されています。また、都市計画などにより地価事情も異なるため、農地の価額は「純農地」「中間農地」「市街地周辺農地」「市街地農地」の4種類に分けて、その区分ごとに評価されます。
区分 | 範囲等 | 評価方法 |
---|---|---|
純農地 |
良好な営農条件を備えている |
倍率方式 |
中間農地 |
鉄道の駅が500m以内にある等、市街化が見込まれる農地または生産性の低い小集団の農地 |
|
市街地周辺農地 |
鉄道の駅が300m以内にある等の市街地の区域又は市街地化の傾向が著しい区域にある農地 |
市街地農地の評価額×80% |
市街地農地 |
|
宅地比準方式または倍率方式 どちらの方式によるかは「評価倍率表」に記載されており、「比準」などの記載があれば宅地比準方式、倍率が記載されていれば倍率方式で評価 |
一般的に純農地は評価額が低く、市街地に近づくほど評価額が高くなっていきます。
倍率方式
倍率方式とは、評価対象地の「固定資産税評価額」に、国税庁が定める「評価倍率表」に示されている一定の倍率をかけて計算する方法です。
固定資産税評価額は、固定資産税の納税通知書で確認ができます。添付されている課税明細書の「価格」の欄に記載されているのが固定資産税評価額です。
評価倍率表は、国税庁ホームページの「路線価図・評価倍率表」で確認できます。
宅地比準方式
宅地比準方式は、「その農地が宅地であるとした場合の1㎡あたりの価額」から、その農地を宅地に転用するために必要となる「1㎡あたりの造成費の額」を控除した金額に農地の地積をかけて計算した金額で評価する方法です。
造成費も国税庁ホームページ「路線価図・評価倍率表」で確認できます。
上記の「その農地が宅地であるとした場合の1㎡あたりの価額」は、農地が路線価地域内にある場合にはその路線価により、農地が倍率地域内にある場合はその農地に最も近接し、かつ、道路からの位置や形状等が最も類似する宅地の評価額(宅地としての固定資産税評価額×宅地としての評価倍率)を基として計算します。
その結果、市街地農地や市街地周辺農地では宅地に準じた相続税評価額となり、相続税が予想以上に高額になる可能性があります。
市街地農地の評価額の計算は大変複雑です。国税庁ホームページ「市街地農地等の評価明細書」を利用すれば計算しやすくなりますが、宅地以上に複雑な計算が必要なので専門家に相談することをおすすめします。
農地にかかる相続税の納税猶予特例とは
市街化区域にある農地や面積の広い農地など、相続する農地によっては相続税の負担が大きくなることがあります。
そこで、農業を継続する相続人を税制面から支援する特例が設けられました。一定の要件を満たせば
- 農地にかかる相続税については、一部のみを納税し、残りについては納税を待ってもらえる(猶予される)
- 一生(一部の地域では20年間)農業を継続すれば、猶予された税額は免除される(納めなくてもよい)
というものです。
納税を猶予される相続税の額
本来の相続税額のうち「農業投資価格に基づいて計算した相続税額」を超える部分について納税が猶予されます。
納税猶予額のイメージ
*農業投資価格
農地等が恒久的に農業の用に供される土地として自由な取引がされるとした場合に通常成立すると認められる価格として国税局長が決定した価格(20万円~90万円程度/10a)
農業投資価格についても、国税庁ホームページの「路線価図・評価倍率表」で確認できます。
また、この特例を受けている相続人が亡くなったときや、農業の後継者に生前一括贈与した場合などには納税猶予額が免除されます。
納税猶予特例の要件
この特例を受けるためには、「被相続人」「相続人」「農地」それぞれの要件に該当している必要があります。
被相続人の要件
次のいずれかに該当する人であること。
- 亡くなるまで農業を営んでいた人
- 生前一括贈与(贈与税納税猶予)をした人
- 亡くなるまで特定貸付け等をおこなっていた人
特定貸付け等とは、「農業経営基盤強化促進法」、「都市農地の貸借の円滑化に関する法律」または「特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律」などの規定による一定の貸付けをいいます。
相続人の要件
次のいずれかに該当する人であること。
- 相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後も継続して農業経営をする人
- 生前一括贈与されて贈与税の納税猶予の特例を適用していた人
- 相続税の申告期限までに特定貸付け等をおこなった人
農地の要件
被相続人が農業をしていたまたは特定貸付け等をおこなっていた農地で、次のいずれかに該当する農地であること。
- 相続税の申告期限までに遺産分割が終了している農地
- 贈与税の納税猶予の特例が適用されていた農地
- 相続があった年に被相続人から生前一括贈与されていた農地
参考:国税庁HP No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例
ただし、途中で農地を譲渡、贈与、転用したり、農業経営をやめてしまったりすると特例の適用が打ち切られ、猶予されていた相続税に利子税をプラスして支払う必要がでてきます。
将来、農地の売却や転用などを考えている方は、特例の適用を受けるかどうかしっかり検討しましょう。
特例を受けるための手続き
相続税の申告手続
相続税の申告書に所定の事項を記載し期限内に提出するとともに、納税猶予額と利子税の額に見合う担保の提供が必要です。申告書には「相続税の納税猶予に関する適格者証明書」や「担保提供書」などを添付します。詳しくは市町村のホームページなど確認できます。
納税猶予期間中の継続届出
納税猶予期間中は相続税の申告期限から3年ごとに、「継続届出書」の提出が必要です(一部、不要な場合もあります)。その際には、農業委員会の発行する「引き続き農業経営を行っている旨の証明書」などの添付が必要です
まとめ
農地の相続は、宅地相続とは異なる点が多々あります。特に相続人が農業を営んでいない場合は負担が大きくなります。
生前から相続税だけでなく、農地の活用や処分の方法について話し合っておく必要があります。
農地の評価額の計算は宅地の場合に比べ複雑になる傾向にあります。また、相続後の手続きは相続税の申告だけでなく農業委員会への届出にも期限があるので、ご家族だけで解決できない問題は是非専門家に相談してみてください。
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この記事を書いた人
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