相続税の重加算税の要件・税率・計算方法、配偶者控除の適用可否
相続税について重加算税が課されるのは、どのようなケースでしょうか?
また、重加算税の税率は何%で、どのように計算するのでしょうか?
重加算税が課されるケースにおける修正申告では、配偶者控除の適用を受けることはできるのでしょうか?
この記事では、相続税の重加算税についてご説明します。
目次
相続税の重加算税が課される場合
重加算税は、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に課されることとされていますが、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」とは、例えば、次に掲げるような事実がある場合をいいます。
- 相続人(受遺者を含む。)又は相続人から遺産(債務及び葬式費用を含む。)の調査、申告等を任せられた者(以下「相続人等」という。)が、帳簿、決算書類、契約書、請求書、領収書その他財産に関する書類(以下「帳簿書類」という。)について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿をしていること。
- 相続人等が、課税財産を隠匿し、架空の債務をつくり、又は事実をねつ造して課税財産の価額を圧縮していること。
- 相続人等が、取引先その他の関係者と通謀してそれらの者の帳簿書類について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿を行わせていること。
- 相続人等が、自ら虚偽の答弁を行い又は取引先その他の関係者をして虚偽の答弁を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、相続人等が課税財産の存在を知りながらそれを申告していないことなどが合理的に推認し得ること。
- 相続人等が、その取得した課税財産について、例えば、被相続人(亡くなった人)の名義以外の名義、架空名義、無記名等であったこと若しくは遠隔地にあったこと又は架空の債務がつくられてあったこと等を認識し、その状態を利用して、これを課税財産として申告していないこと又は債務として申告していること。
重加算税が課せられる場合は、他の加算税は課されない
重加算税が課される場合は、他の加算税(無申告加算税又は過少申告加算税)は課されません。
重加算税は他の加算税よりも税率が高いので、代わりに課されるだけで税額がより高額になります。
なお、無申告加算税については「相続税の無申告加算税の税率と計算方法、延滞税についても説明」を、過少申告加算税については「相続税の修正申告|期限と延滞税、申告書・納付書の書き方、報酬」をそれぞれご参照ください。
相続税の重加算税の計算方法と税率
相続税の重加算税の税率は、過少申告の場合と無申告の場合とで異なります。
過少申告の場合は35%、無申告の場合は40%です。
過少申告の場合は、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に35%を乗じて(掛け算して)計算した金額が重加算税の税額となります。
無申告加算税の場合は、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に40%を乗じて計算した金額が重加算税の税額となります。
計算の基礎となるべき税額とは、「その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額」をいいます。
そして、「当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額」を算出する上で基となる相続税の総額の基礎となる各人の課税価格の合計額は、その更正等のあった後の各人の課税価格の合計額からその者の不正事実に基づく部分の価額(以下「重加対象価額」という。)を控除した金額を基に計算します。
また、各人の税額計算を行う上で、「当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額」の基礎となるその者の課税価格は、その更正等のあった後のその者の課税価格から当該課税価格に係るその者の重加対象価額を控除した金額を基に計算します。
なお、重加対象価額の基となる財産に対応することが明らかな控除もれの債務(控除不足の債務を含む。)がある場合には、当該財産の価額から当該債務の金額を控除した額が重加対象価額となります。
設例に基づいて計算方法を具体的に説明します。
例えば、Aさんは、被相続人の唯一の相続人で、遺産の課税価格が1億万円あったとします。
Aさんは、4000万円分の遺産を隠蔽し、1000万円分の遺産については存在に気が付かずに、5000万円分の遺産について期限内に申告し、160万円を納付しました(5000万円−3600万円=1400万円、1400万円×15%−50万円=160万円)。
税務調査によって、隠蔽した4000万円分の遺産と、存在に気づいていなかった1000万円分の遺産の存在が明らかになったため、修正申告を行い、1060万円を納付しました(1億円−3600万円=6400万円、6400万円×30%−700万円−160万円=1060万円)。
期限内に申告した5000万円の遺産と、存在に気づいていなかった1000万円分の遺産は、隠蔽又は仮装したものではないので、重加算税の計算上、控除することができます。
そうすると、重加算税は318万5千円(5000万円+1000万円−3600万円=2400万円、2400万円×15%−50万円=310万円、1060万円+160万円−310万円=910万円、910万円×35%=318万5千円)となり、過少申告加算税は15万円(1060万円−910万円=150万円、150万円×10%=15万円)となり、加算税の合計額は333万5千円となります。
仮装又は隠蔽されていた財産は配偶者控除の対象外
相続税の配偶者控除(正しくは「配偶者の税額の軽減」といいます。)とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。
- 1億6千万円
- 配偶者の法定相続分相当額
この制度の対象となる財産には、仮装又は隠蔽されていた財産は含まれません。
つまり、税務調査で仮装又は隠蔽していた財産について申告漏れの指摘を受けて修正申告又は期限後申告をする場合に、仮装又は隠蔽していた財産について配偶者控除を適用させることはできないということです(隠蔽・仮装したのが配偶者でなく、他の相続人だったとしても同じです)。
例えば、仮装又は隠蔽されずに期限内に申告されていた財産が6千万円で、仮装又は隠蔽されていた財産が1億円あったとすると、配偶者控除を受けられるのは前者の6千万円についてのみということになります。
このように、相続財産の仮装又は隠蔽を行うと、重加算税が課せられるだけでなく、配偶者控除が受けられないため、著しく不利になります。
重加算税が課させるケースでは、通常、延滞税も課される
重加算税が課させるケースでは、通常、延滞税も課されます。
延滞税とは、税金が定められた期限までに納付されない場合に、原則として法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて課される、利息に相当する税金のことです。
延滞税については、別の記事にまとめました。「相続税の延滞税がかかる場合と免除される場合、計算方法」をご参照ください。
さらに刑事罰が科させることがある
偽りその他不正の行為によって相続税を免れた者や、正当な事由がなくて期限内に申告しなかった者等は、重加算税が課せられるだけでなく、刑事告発され、懲役又は罰金に処せられる可能性があります。
もっとも、これらに該当した場合でも、告発されるケースは少なく(相続税では年平均2件ほど)、よほど悪質な場合に限られます。
なお、告発されるケースでは、通常、任意の税務調査ではなく、国税局査察部(通称「マルサ」)による強制捜査が行われます。
強制調査が入ると、約7割が告発されています。脱税で告発されると、統計上、ほぼ100%の確率で、起訴、有罪判決に至っています。
強制捜査が入った時点で、告発され、逮捕・起訴される可能性も視野に入れて、税理士だけなく、弁護士にも相談することを検討した方が良いかもしれません。
まとめ
以上、相続税の重加算税について説明しました。
重加算税は他の加算税よりも税額が高くなるため、重加算税を課させることは絶対に避けたいところでしょう。
しかし、人間は弱いもので、自分で申告しようとすると、つい出来心で不正をはたらいてしまうということもあるでしょう。
特例等を駆使して公正な方法で節税する方法もあるので、申告手続きは、相続税に強い税理士に依頼することをお勧めします。税理士をお探しの場合はお気軽にご連絡ください。
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この記事を書いた人
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