相続税の障害者控除で税金が最大1700万円引!手帳無しでも可能性有り
障害がある人が、一定の要件を満たす場合に、相続税から一定の額を控除することができます。
障害者手帳をもっていない人や要介護認定を受けていない人でも、適用を受けられる可能性があります。
また、障害がある人の親、兄弟などが納めるべき税額にも適用させることができます。
この障害者控除は、控除額が、最大1700万円と、とても大きいので、適用漏れがあると大きく損してしまいます。
少しでも可能性がある人は、この記事を参考に、適用を受けられる可能性があるかどうかを確認することをお勧めします。
相続税の障害者控除とは?
相続税の障害者控除とは、障害者が遺産を相続した場合等に、その相続税の額から、最大1700万円を差し引く制度です。
障害者本人だけでなく、障害者と一緒に相続した、障害者の親や兄弟の相続税の額からも差し引ける可能性があります(詳しくは後述)。
相続税の障害者控除が受けられる人
相続税の障害者控除が受けられるのは、次のすべてに当てはまる人です。
- 相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がある人(一時居住者で、かつ、被相続人が一時居住被相続人又は非居住被相続人である場合を除きます。)
- 相続や遺贈で財産を取得した時に障害者である人
- 相続や遺贈で財産を取得した人が法定相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)であること。
遺贈とは、遺言者が死後に財産を人に無償で譲与することをいいます。
法定相続人以外に人に対しても遺贈をすることができますが、法定相続人でなければ、相続税の障害者控除を受けることはできません(遺贈について詳しく知りたい場合は「遺贈とは?相続や贈与との違いは?最適な継承方法を選ぶための全知識」参照)。
なお、相続の放棄があった場合は後順位の相続人が法定相続人になりますが、先順位の相続人が相続を放棄したことによって相続人になった人は、相続税の障害者控除を受けることはできません(相続放棄について詳しく知りたい場合は「財産放棄と相続放棄の違いを理解して財産放棄で損しないための全知識」参照。法定相続人については「法定相続人とは?法定相続人の範囲と優先順位、相続割合を図で説明」参照)。
相続税の障害者控除を受けられる障害者の種類としては、一般障害者と特別障害者があります。
一般障害者に該当するのは、次のいずれかに当てはまる人です。
- 児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター若しくは精神保健指定医の判定により知的障害者とされた者のうち重度の知的障害者とされた者以外の者
- 精神障害者保健福祉手帳に障害等級が二級又は三級である者として記載されている者
- 身体障害者福祉法第15条第4項((身体障害者手帳))の規定により交付を受けた身体障害者手帳に身体上の障害の程度が3級から6級までである者として記載されている者
- 1、2又は3に掲げる者のほか、戦傷病者手帳に記載されている精神上又は身体上の障害の程度が次に掲げるものに該当する者
- 恩給法別表第一号表の二の第四項症から第六項症までの障害があるもの
- 恩給法別表第一号表の三に定める障害があるもの
- 傷病について厚生労働大臣が療養の必要があると認定したもの
- 旧恩給法施行令第31条第1項に定める程度の障害があるもの
- 常に就床を要し、複雑な介護を要する者のうち、精神又は身体の障害の程度が1又は3に掲げる者に準ずるものとして市町村長等の認定を受けている者
- 精神又は身体に障害のある年齢65歳以上の者で、精神又は身体の障害の程度が1又は3に掲げる者に準ずるものとして市町村長等の認定を受けている者
特別障害者に該当するのは、次のいずれかに当てはまる人です。
- 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者又は児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター若しくは精神保健指定医の判定により重度の知的障害者とされた者
- 精神障害者保健福祉手帳に障害等級が一級である者として記載されている者
- 身体障害者手帳に身体上の障害の程度が1級又は2級である者として記載されている者
- 1、2又は3に掲げる者のほか、戦傷病者手帳に精神上又は身体上の障害の程度が恩給法別表第一号表の二の特別項症から第三項症までである者として記載されている者
- 3及び4に掲げる者のほか、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律第11条第1項((認定))の規定による厚生労働大臣の認定を受けている者
- 常に就床を要し、複雑な介護を要する者のうち、精神又は身体の障害の程度が1又は3に掲げる者に準ずるものとして市町村長等の認定を受けている者
- 精神又は身体に障害のある年齢65歳以上の者で、精神又は身体の障害の程度が1又は3に掲げる者に準ずるものとして市町村長等の認定を受けている者
なお、相続開始の時において、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けていない者、身体障害者手帳の交付を受けていない者又は戦傷病者手帳の交付を受けていない者であっても、次に掲げる要件のいずれにも該当する者は一般障害者又は特別障害者に該当するものとして取り扱うものとされています。
- 当該相続に係る相続税申告書を提出する時において、これらの手帳の交付を受けていること又はこれらの手帳の交付を申請中であること。
- 交付を受けているこれらの手帳、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けるための医師の診断書若しくは精神障害を支給事由とする給付を現に受けていることを証する書類又は身体障害者手帳若しくは戦傷病者手帳の交付を受けるための医師の診断書により、相続開始の時の現況において、明らかにこれらの手帳に記載される程度の障害があると認められる者であること。
相続税の障害者控除の額の計算方法
障害者控除の額は、その障害者が満85歳になるまでの相続開始の時から起算した年数1年(年数の計算に当たり、1年未満の期間があるときは切り上げて1年として計算します。)につき、一般障害者の場合は10万円で、特別障害者の場合は20万円で、それぞれ計算した額です。
算式で表すと、次の表のとおりです。
一般障害者 | (85歳−相続開始時の満年齢)×10万円 |
---|---|
特別障害者 | (85歳−相続開始時の満年齢)×20万円 |
例えば、相続開始時の満年齢が40歳の一般障害者Aさんの障害者控除額は、「(85歳−40歳)×10万円=450万円」となります。
40歳11か月でも40歳0か月でも違いはなく、満年齢である40歳で計算します。
また、障害者控除額が、その障害者本人の相続税額より大きいため控除額の全額が引ききれないことがあります。
この場合は、その引ききれない部分の金額をその障害者の扶養義務者の相続税額から差し引きます。
扶養義務者とは、配偶者、直系血族及び兄弟姉妹のほか、3親等内の親族のうち家庭裁判所が扶養の義務を負わせた人をいいます。
現に扶養をしていなくても構いません。
直系血族とは、親、祖父母、子、孫等のことで、祖父母よりも上の世代や、孫よりも下の世代も含まれます。
例えば、前述のAさんが、父の遺産を兄と共に相続し、それぞれの相続税額は300万円であったとします。
Aさんの障害者控除の額は450万円ですから、「450万円−300万円=150万円」が引ききれずに残ります。
この150万円をAさんの扶養義務者であるAさんの兄の相続税額から差し引きます。
そうすると、Aさんの兄の相続税額は、「300万円−150万円=150万円」となります。
なお、障害者本人がまったく相続していない場合は、障害者控除は受けられませんから、その障害者の扶養義務者の相続税額から障害者控除相当額を差し引くこともできません。
どういうことかというと、例えば、Aさんと兄の間の話し合いで、遺産の全額を兄が相続することになったとします。
このような場合は、障害者控除は受けられないということです。
なお、障害者本人がたとえ1円でも相続していれば、障害者本人に相続税額が生じていなくても、障害者控除を受けて、兄の相続税額を控除することができます。
また、その障害者が今回の相続以前の相続においても障害者控除を受けているときは、控除額が制限されることがあります。
前回、控除額全額の控除を受けている場合は、2回目の控除は受けられません。
前回の控除額に余剰が生じた場合は、今回の控除額と前回の余剰分のいずれか少ない方の額の控除を受けることができます。
例えば、一般障害者のBさんが、満40歳の時に父が亡くなり、兄と共に遺産を相続したとします。
この時のBさんの障害者控除の額は、前述のAさんと同じ状況なので、Aさんと同じく450万円です。
Bさんと兄の相続税額はそれぞれ100万円で、合計で200万円だったします。
この場合、200万円全額を控除して「450万円−200万円=250万円」が残ります。
そして、5年後、Bさんが満45歳の時に、今度は母が亡くなったとします。
この場合の障害者控除の額は、通常通りに計算すれば、「(85歳−45歳)×10万円=400万円」になりますが、父の相続の際の障害者控除の余剰額である250万円の方が400万円よりも少ないので、母の相続の際の障害者控除の額は250万円となります。
相続税の障害者控除の申告が必要な場合と申告方法
相続税の障害者控除を受けることによって、相続税額の全額が控除される場合は、相続税の申告も、障害者控除を受ける旨の申告も不要です。
控除額を差し引いても税額が残る場合は、相続税の申告が必要です。
相続税の申告については「相続税の申告が不要なケース、自分で申告する方法と申告期限」をご参照ください。
障害者控除を受ける場合は、相続税の申告の際に、相続税申告書の第6表(「未成年者控除額・障害者控除額の計算書」)に必要事項を記入して、障害者控除の要件を満たす障害者であることの証明書(障害者手帳のコピー等)を添付します。
障害者控除を受けられたにもかかわらず、受けずに申告・納付してしまった場合は、申告期限から5年以内であれば、「更正の請求」という手続きをとることによって、払い過ぎた相続税を取り戻すことができます。
更正の請求の手続き方法が分からない場合は、相続税に強い税理士に相談するとよいでしょう。
まとめ
以上、相続税の障害者控除について説明しました。
なお、相続税の計算方法については「相続税の計算方法を流れに沿ってステップごとにわかりやすく説明!」をご参照ください。
障害者控除は額が大きいので、適用漏れがないように、不明な点は税理士に相談しましょう。
ご希望の地域の専門家を探す
ご相談される方のお住いの地域、遠く離れたご実家の近くなど、ご希望に応じてお選びください。
この記事を書いた人

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