相続税の修正申告が必要なケースとペナルティー、加算税と延滞税
この記事はこんな方におすすめ:
これから相続税の申告をする方・相続税申告後に新たに財産が見つかった方
- 申告内容間違いや申告漏れがあると税務署の実地調査の対象にされやすい
- 相続税の修正申告で追加納税した場合、過少申告加算税と延滞税などのペナルティーが課される
- 税務署からの指摘前に、自主的に修正申告をした場合、過少申告加算税は免除
相続税の申告・納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月です。しかし、申告額が過少に申告されていた場合や、また申告期限を過ぎた後に新たに被相続人の財産が発見されるなど、相続税の税額を計算する基となる相続財産が変化することも起こり得ます。このような場合、相続税の修正申告をおこないます。
相続税の修正申告が必要なケース
相続税の修正申告が必要となるケースには、主に次のような理由があります。
提出した相続税の申告書が間違っていた
「令和元年分相続税の申告事績の概要」(国税庁)によると、2019年の死亡者数のうち、相続税の申告書の提出に関わる被相続人数は115,267人、相続税の納税者である相続人は254,517人でした。
次に「令和元事務年度における相続税の調査等の状況」をみると、相続税の実地調査(税務署員が納税者のもとに出向いておこなう調査)の件数は10,635件、さらにそのうち申告漏れなど非違(法律違反)件数は9,072件と、85.3%にも上ります。なお、実地調査は、事前に申告内容に間違いや申告漏れなどがあると想定された場合におこなわれるようです。
相続税の申告書の間違いは次のようなケースがあります。
計算の間違い
相続税の計算は複雑です。相続税申告書を税務署に提出すると、まず申告書の計算が正しいかどうかをチェックされます。相続税の計算に間違いがあった場合、税務署から連絡が届きます。
財産評価の間違い
相続財産は、財産の種類によって評価方法が決まっています。誤った評価をおこなうと、正しい申告はできません。
控除や特例等の適用の間違い
相続税には、基礎控除以外にも、配偶者控除や小規模宅地等の特例など税額を軽減できる制度があります。これらの制度は相続人の立場(被相続人との関係)や、年齢などさまざまな条件によって利用できるものとできないもの、また利用できても軽減される額が異なります。誤った制度を適用して計算をした場合、修正申告が必要になります。
相続財産、相続分に変動があった
相続税の申告書に不備がなくても、申告後に相続財産や相続分が変わり、当初の申告内容よりも税額が増えるのであれば修正申告をする必要があります。
相続分等に変動が起こるのは主に以下のようなケースです。
相続税の申告後、新たに財産が発見された
相続税の申告後に、新たに財産が見つかった場合、見つかった財産がすでに申告した相続税申告書に含まれていなければ修正申告をする必要があります。
修正申告は、遺産分割協議書で新たに発見された財産についての取り決めがあればその内容にそっておこないます。取り決めがなければ、相続人同士で再度話し合い、発見された財産の相続人と分配を確定させます。
申告期限に遺産分割協議が終わらなかった
相続税の申告期限は相続発生後から10ヵ月以内です。
しかし、遺産分割協議がまとまらずに申告期限を迎えてしまった場合は、各相続人が法定相続分、または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして計算し申告、納税します。
遺産分割協議が終わり、法定相続分で申告した納税額よりも増えた場合は修正申告が必要です。反対に減額した場合は更正の請求ができます(分割のあったことを知った日の翌日から4ヵ月以内)。
また、原則、申告期限から3年以内に分割があった場合は、相続税の特例である小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例や配偶者の税額の軽減の特例などが適用できます。これらの特例を受けるためには、相続税の申告書とともに「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておく必要があります。
遺留分侵害額請求により相続分が変動した
遺留分侵害額請求がおこなわれると、相手との交渉などしたりと、手続きに期間を要するため、相続税の申告期限後に相続分が確定するケースが多くなります。
相続税の修正申告にかかるペナルティー
相続税の修正申告を行い、追加で納税した場合、過少申告加算税と延滞税などのペナルティーが課されます。
ただし、税務署から指摘される前に間違った申告に気付き、修正申告を自主的におこなった場合、過少申告加算税は免除されます。
無申告加算税
無申告加算税とは、正当な理由なく申告期限までに申告がおこなわれなかった場合に課税される税金のことをいいます(国税通則法66条)。相続税の申告期限から1ヵ月を経過する日までに申告がなかった場合に適用されます。
なお、災害、交通・通信の途絶などやむを得ない自由があると認められる場合は正当な理由として扱われますが、相続人同士の争いなどで、相続財産の全体が把握できなかった、または遺産分割協議がおこなえなかったといった場合は、正当な理由には当たりません。
無申告加算税の税率
無申告加算税は、納付すべき税額に課されます。
申告する時期などによっても異なり、申告期限後、税務調査の事前通知より前に自主的に申告した場合は5%。申告期限後、税務調査の事前通知より後に申告した場合は15%。さらに、50万円を超える部分については20%が課税されます。
過少申告加算税
過少申告加算税とは、間違って本来納付すべき額よりも少なく申告した場合に課税される税金のことをいいます(国税通則法65条)。
過少申告加算税の税率
修正申告、または更正により納付することとなった税額の10%です。
この時、新たに納付する税額が、期限内申告税額または50万円のいずれか多い額を超える場合、超える分については15%が課されます。
例:申告納税額250万円、期限内申告100万円の場合
ただし、修正申告書の提出が、調査通知以後、かつ調査による更正を予知してされたものでない場合には、その提出により納付することとなった税額の5%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は10%)です。
期限内申告税額とは、期限内申告書により納付すべき税額に次を加算した額です。
①源泉所得税
②中間・予納額
③外国税額控除額
④相続時精算課税に係る贈与税相当額等
延滞税
延滞税とは、税金を期限までに納付できなかった場合に課される税金のことをいいます。本来納めなければならない税金に、法定納期限の翌日から完納する日までの延滞税を併せて納付する必要があります。なお、税率は毎年変動します。
延滞税が発生するケースは以下になります。
1.申告などで確定した税額を法定納期限までに完納しないとき
2.期限後申告書又は修正申告書を提出した場合で、納付しなければならない税額があるとき
3.更正又は決定の処分を受けた場合で、納付しなければならない税額があるとき
延滞税の算出方法
延滞税の額は、法定納期限の翌日から完納する日までの日数に応じ、次により計算した金額の合計額(①+②)となります。
令和3年1月1日以後の期間に対応する延滞税の割合
①納期限までの期間及び納期限の翌日から2月を経過する日までの期間については、年「7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い割合
②納期限の翌日から2月を経過する日の翌日以後については、年「14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合
なお、延滞税特例基準割合とは、各年の前々年の9月から前年の8月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合として各年の前年の11月30日までに財務大臣が告示する割合に、年1%の割合を加算した割合をいいます。
納期限は次のとおりです。
- 期限内に申告された場合には法定納期限
- 期限後申告又は修正申告の場合には申告書を提出した日
- 更正・決定の場合には更正通知書を発した日から1月後の日
出典:国税庁 延滞税の計算方法
延滞税は、納付期限の翌日から税金を完納する日までの日数が長ければ長いほど、納めなければならない税額は大きくなります。
重加算税
重加算税とは、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に課せられる税金です(国税通則法第68条)。
相続税の場合、受遺者を含む相続人が財産に関する書類を改ざんしたり、取得した課税財産について、例えば被相続人の名義以外の名義であったことを認識しながらその状態を利用して、これを課税財産として申告していない場合などに課せられます。
相続税の重加算税の賦課に関する取扱基準
- 相続人(受遺者を含む。)又は相続人から遺産(債務及び葬式費用を含む。)の調査、申告等を任せられた者(以下「相続人等」という。)が、帳簿、決算書類、契約書、請求書、領収書その他財産に関する書類(以下「帳簿書類」という。)について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿をしていること。
- 相続人等が、課税財産を隠匿し、架空の債務をつくり、又は事実をねつ造して課税財産の価額を圧縮していること。
- 相続人等が、取引先その他の関係者と通謀してそれらの者の帳簿書類について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿を行わせていること。
- 相続人等が、自ら虚偽の答弁を行い又は取引先その他の関係者をして虚偽の答弁を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、相続人等が課税財産の存在を知りながらそれを申告していないことなどが合理的に推認し得ること。
- 相続人等が、その取得した課税財産について、例えば、被相続人の名義以外の名義、架空名義、無記名等であったこと若しくは遠隔地にあったこと又は架空の債務がつくられてあったこと等を認識し、その状態を利用して、これを課税財産として申告していないこと又は債務として申告していること。
出典:相続税及び贈与税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)
重加算税は、修正申告または更正により納付すべき税額の35%です。さらに、無申告だった場合は税率が40%となります。重加算税が課せられた場合、過少申告加算税や無申告加算税は適用されません。
なお、重加算税が課せられると調査期間が、最長7年間に延長され、延滞税を計算する際に控除期間がなくなりますので負担額が大きくなります。
まとめ
相続税の修正申告が必要になるケースは多く、場合によってはペナルティーが課せられる場合があります。さらに、不正行為が発覚して相続税の修正申告を行う場合はペナルティーも非常に重くなります。
「相続税の申告期限が近づいているが遺産分割協議がまとまらない」「相続財産の種類が多く評価が難しい」など、相続税の申告に不安を感じたら、早めに専門家に相談することをおすすめします。
ご希望の地域の専門家を探す
ご相談される方のお住いの地域、遠く離れたご実家の近くなど、ご希望に応じてお選びください。
この記事を書いた人
相続専門のポータルサイト「いい相続」は、相続でお悩みの方に、全国の税理士・行政書士・司法書士・弁護士など相続に強い、経験豊富な専門家をお引き合わせするサービスです。
「遺産相続ガイド」では、遺産分割や相続手続に関する役立つ情報を「いい相続」編集スタッフがお届けしています。また「いい相続」では、相続に関連する有資格者の皆様に、監修のご協力をいただいています。
▶ いい相続とは
▶ 監修者紹介 | いい相続
相続税に関する他の記事
- 現預金のみの遺産が一番損⁉相続財産ケース別チェックポイント
- 農地の相続税には、納税猶予特例の 活用がおすすめ!
- 多すぎる弔慰金は相続税の課税対象となることも!?知っておきたい弔慰金と死亡退職金のこと
- 相続税の計算で相続財産から控除できる葬式費用とは?
- 2月23日は税理士記念日|記念日の由来と相続相談するときの注意点
- 相続税還付|納め過ぎた税金が戻ってくる?還付請求のポイントと手続きの流れ
- 相続税は電子申告が可能に!e-Taxで提出する際の注意点とは?
- 相続税の障害者控除の税額控除に必要な適用要件と控除額算出方法
- 相続税対策を税理士に依頼するケースと依頼内容|税理士の選び方や相場は?
- 相続税の非課税枠|相続税の基礎控除額と非課税財産