個人事業経営・法人経営であっても、運営の際に必ず試算しなくてはいけないことは、「原価計算」と「損益分岐点」です。この2つを的確に試算出来ている場合といない場合とでは、設定した売上目標値が大きく変わってきます。売り上げも上がってきているのに、予測よりも実入りが少ない場合、原価計算と損益分岐点の設定が正しく出来ていない可能性が高いです。
今回は、起業の際に重要になる「原価計算」と「損益分岐点の設定」の方法を学び、正しい目標値を設定できるようにしたいと思います。どんなビジネスでも、目標を設定しなければダラダラと赤字を重ねてしまう結果になりかねません。この機会にきちんと把握してください。
原価計算と原価管理を行い「損益分岐点」を見つける
損益分岐点とは、いわゆる損得ゼロの地点です。ここを突破できない限り会社としての利益を獲得することは出来ません。この損益分岐点を設定するには、正しい原価計算をする必要があるのですが、原価計算を甘く考えている人が多いようです。
原価計算を正しく試算し正しい損益分岐点を知らなければ、適切な原価管理を行うことが出来ません。これはビジネスの失敗のきっかけにもなりかねません。今回は正しい原価計算と損益分岐点の割り出し方法を、女性起業家から注目されている「マンションエステサロン」を例にとって説明していきます。
原価とは何か|仕入れ値だけが原価ではない
業種によっても変わる場合もありますが、原価とは3つの分類から成り立っています。「材料費」「労務費」「経費」の3種です(昭和37年企業会計審議会作成)。原価と言うと仕入れ値だけを考えてしまう人も多いようで、この辺りを明確にできないと、原価計算が甘くなってしまいます。
まずは基本の「材料費」「労務費」「経費」から理解してみましょう。
材料費とは
例えばエステでは、ボディートリートメントに使用する「オイル・ペーパーショーツ・使い捨てシーツ」など、顧客1人に対して必要な使い捨ての材料の仕入料が「材料費」です。専門的には「物品の消費によって生ずる原価」と言います。
エステの場合、材料費は理論計算なってしまいます。本来は実際のオイルの使用量(消費量)に仕入れ価格(消費価格)を乗算することで計算しなくてはいけませんが、お客様の体格には個人差があるのでオイルの正確な使用量を知ることは困難です。
そこでオイルの平均的な「標準消費量」を設定し、現在の仕入れルートでの仕入れ額を「標準価格」として設定します。この2つを設定することが出来れば、ボディトリートメンの顧客1人に対しての標準原価を出しやすくなります。
この「標準原価」とペーパーショーツ、ディスポシーツなどの決まった材料費を足すことで、全体の材料費を試算することができるのです。
労務費とは
労務費とは、「労働力の消費によって発生する原価」です。ざっくり説明すれば「人件費」ということになりますね。今回は個人オーナーのマンションエステサロンなので、オーナー1人で運営すると考えてみましょう。オーナーが額面給与として「30万円」欲しいと考えているならば、労務費は30万円になります。
経費とは
経費とは、特別な意味を持つ場合もありますが、一般的には材料費と労務費以外に掛かる費用のことを言います。マンションエステの場合には、家賃・水道光熱費・通信費・宣伝広告費などが挙げられます。
実際に原価計算をして「損益分岐点」を導き出してみよう
では、実際に原価計算をして「損益分岐点」を導き出してみましょう。
【労務費】
労働者1人(個人オーナのみ)の労務費を上記のように「30万円」で設定します。
【経費】
家賃15万+水道光熱費3万+宣伝広告費(ネット広告とリーフレット)12万=30万円
労務費と経費に関しては簡単に設定することが出来ますが、材料費はそうはいきません。まずは顧客1人に対しての材料費を計算してみましょう。
【顧客1人に対しての材料費】
ペーパーショーツ15円+使い捨てシーツ25円=40円
オイルの標準消費量50mlとして、500mlのキャリアオイルを1万円で仕入れるとすると
キャリアオイルの顧客1人に対しての標準価格は1,000円
顧客1人に対しての材料費は 1,040円
ここまで計算すると、エステの場合は材料費のリスク(トリートメントのメニューに関して)はそこまで大きくないので(1人2万の設定で材料原価率 約5%)、まず固定費(労務費+経費)のみで損益分岐点を60万で設定すると
ボディートリートメントの料金を1人(120分)2万円とすると、1人につき材料費が1,040(円かかるので
60万円÷18,960円=約31.6人
割引などを考えなければ、1か月に約32人の顧客を集めることが出来れば損益分岐を突破できることになります。しかし、割引を行ったりした場合にはこの限りではありません。料金設定は「割引を考慮した金額で計算する」ことが重要になってきます。例えば割引分を考え、平均単価を1万円で設定するならば、約67人の集客で損益分岐点突破になるのです。
この計算は、「個人オーナーのマンションエステサロン」の設定でざっくりと計算されたものです。税金や開業資金の回収分などを考慮していませんので、あくまでも概算です。
原価管理を考えてみる
原価管理とは、試算された原価を把握したうえで、どうしたらより大きな利益を生み出すことができるのかを考えることです。材料の変更・人件費の削減・宣伝広告の検討・配送などのコストの削減など、業績向上のために必要な手段を決定します。
上記の件で考えれば、広告の手段を変えることで経費を削減し、口コミやリピーター対策をすることで集客を行い、宣伝広告費を削減し必要経費を押さえ、新規サービスの割引率を下げることで平均顧客単価を上昇させるという手段を検討することができるでしょう。
また、実際に営業が始まってから、標準原価と実際に掛かった原価を比べてみて、差が大きい場合は試算をし直すなどの対策も必要です。
まとめ|原価と損益は奥深いものなので成果が出るまで時間が必要
どうでしたか。原価計算と損益分岐のことが分かったでしょうか。損益分岐を甘く設定しすぎてしまうと、思いもよらないしっぺ返しを食らってしまう可能性があります。材料原価率の目標は、業種や運営業態(個人か法人)によっても変わってきます。巷に出回っている原価率が自分のビジネスにとって見合っていない可能性もあるので、少し大変ですが、きちんと計算していきましょう。
- この記事のポイント
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- 「原価計算」し「損益分岐点」を導きだすことが、ビジネスの目標設定で重要
- 原価には、材料費・労務費・経費の3つの分類に分けられる
- 目標原価率は、業種によって異なるので、実際に試算してみることも重要
- 原価計算ができたら、業績向上のために「原価管理」をすることが必要
- 損益や原価は甘く試算しがちなので、シビアに1つひとつ計算しなくてはいけない
(編集:創業手帳編集部)