決算書の作成は税理士などの専門家に丸投げしていたとしても、健全な経営状態を保つためには決算書を読み解くことは必須科目になります。決算書には4種類あり、その中でも特に重要なものは「損益計算書」と「賃借対照表」です。
今回は、正しく損益計算書と賃借対照表を読み解くためのポイントを紹介していきます。この2つの決算書をきちんと読み解くことが出来れば、収益アップやリスクの回避など、経営を改善させるための具体的な手段を講じることが出来るのです。この機会に確実にものにしておきましょう。
損益計算書(PL)と賃借対照表(BS)とは?!
そもそも、損益計算書と賃借対照表のことを知らないという人もいるかもしれません。まずは簡単に説明しておきましょう。
損益計算書(PL)とは
一定期間の会社の経営成績を表しているもので、売上とそれに掛かった「諸費用」と「利益」が表示されています。読み解くことで、会社の利益と損失がハッキリするので、「会社の収益力」を把握することが可能です。
賃借対照表(BS)とは
一定時点の財政状態を表しているもので、会社の資産・負債・純資産が左右対称に表示されています。これを読み解くことで、財務基盤の状態や会社の安定性がわかるのです。
損益計算書(PL)の読み解き方のポイントを解説!
損益計算書には、1年間に発生したすべての「収益」と「費用」が示されています。まずは損益計算書がどんなふうに書かれているのかを理解しておきましょう。
●収益
A.売上高→収益の内、主要な営業活動によって得られたもの
B.営業外利益→収益の内、主要な営業活動以外の活動で得られたもの(受取利息・受取配当金など)
C.特別利益→収益の内、AでもBでもない理由で得られたもの(固定資産売却益・投資有価証券売却益など)
●費用
1.売上原価→Aの売上高に対応している、仕入れと製品の製造にかかる費用のこと
2.販売管理費→主要な営業活動の中で、販売活動・管理などにかかった費用のこと(給与・広告費・交通費・減価償却費など)
3.営業外費用→主要な営業活動以外でかかった費用のこと(支払利息等)
4.特別損失→費用の内、1.2.3.に含まれない、臨時的な理由でかかった費用のこと(固定資産売却損など)
5.法人税・住民税・事業税→法人の所得にかかる課税分
●利益
ア.売上総利益→売上高から対応する売上原価を差し引いた利益のことで、いわゆる「粗利」のこと
イ.営業利益→売上総利益-(販売費+一般管理費)。主要な営業活動から生まれた利益のこと。
ウ.経常利益→営業利益から、営業活動以外の活動から生まれた収益と費用を加減した利益のこと。
エ.税引前当期純利益→経常利益から臨時的に発生した、「特別利益・損失」を加減した利益のこと。
オ.当期純利益→税引前当期純利益から、法人税・住民税・事業税を引いた利益のこと。
損益計算書を読み解くポイントその1|当期純利益
書かれている内容のなかで、一番最初に見るべきものは「当期純利益」になります。
当期純利益は、1年間を通しての経営成績を示しており、一目で赤字・黒字の判断が出来ます。この値が十分で無い場合、利益の蓄積が難しく、結果として資本金を食いつぶすことなりかねません。
損益計算書を読み解くポイントその2|営業利益“率”を確認しよう!
営業利益は、主要な営業活動でどの程度の儲けが出ているかを示しています。では、この数字をチェックしておけばいいかというと、そうではありません。重要なことは、売上高の中に占める営業利益の割合、「営業利益率」です。
営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
で求めることが出来ます。営業利益率が低いということは、売上がちょっと下がってしまうだけで赤字に落ち込んでしまう可能性が高いということです。固定費や変動費を見直しや利益率の見直しの必要がある可能性があります。
業種ごとの目安は「財務総合政策研究所 調査統計部調査統計課(財務省)」が出しているので、必ず参照にしましょう。
損益計算書を読み解くポイントその3|雑費や雑損失の見直しは必須!
損益計算書の科目のうち、販売費・一般管理費の「雑費」や営業外費用の「雑損失」に、多くの金額が計上されていませんか。この「雑費・雑損失」が大きい場合には、不正があるのではないかと勘繰られてしまう可能性があるのです。
中身を確認し、適切な他の科目に振り分けることをオススメします。可能であれば「雑損失」については、決算内訳書で内容を明記するようにしましょう・
賃借対照表(BS)の読み解き方のポイントを解説!
賃借対照表は、左側に「資産の部」、右側の上部に「負債の部」・下部に「純資産の部」という形で構成されています。それぞれの部がどのようなものか例を挙げると、銀行から80万借り入れた場合は「負債」記帳、その80万で器械を購入した場合は「資産」に固定資産として記帳されるということになるのです。
そこを理解したうえで中身を把握していくと、
【右側 資産調達】
●負債
- 流動負債の部→買掛金・未払金・未払い費用などの、一年以内に返済を予定している短期借入等
- 固定負債の部→一年を越えて返済を予定している、長期借入金や社債等
●純資産
株主から出資された資本金・利益余剰金・自己株式など
【左側 運用形態】
●資産
- 流動資産の部→預貯金、無形固定資産、その他の資産等
- 固定資産の部→有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産等
- 繰延資産の部→創立費、社債発行費、開業費等
賃貸対照表を読み解くポイントその1|自己資本を十分にあるか
賃借対照表を見る上で、最も大事な部分ともいえることは、「自己資本」が十分に計上されているかにあります。
自己資本÷総資産(負債の部+純資産の部)×100
の計算式で、自己資本が何%あるかを算出することが可能です。この数値が40%以上であれば、安定した企業であると言え、20~40%であれば一般的な水準、それ未満は倒産の危険性が高いことになります。
賃貸対照表を読み解くポイントその2|純資産の中身を確認
純資産が同じ値でも、その内訳によって全く意味が変わってきます。例えば、純資産の内分が「資本金4000万・利益余剰金がマイナス2000万」の会社と「資本金400万・利益余剰金1600万」の会社があった場合、後者の会社の方が、財務基盤がしっかりしていると言えます。
前者は資本金を食いつぶし、いずれ自己資本比率もマイナスになっていくはずです。純資産の内、利益余剰金が占める割合を大きくしていくことが重要になってきます。
賃貸対照表を読み解くポイントその3|役員貸付金は早めに解消
- 会社が経営者に貸し付けた金額
- 経営者個人の飲食代や生活費などを会社名義のクレジットカードで支払ったもの目
- 他の科目の残高を合わせるために、差額を解明せず貸付金として処理したもの
こういったものは、役員貸付金に計上されます。
役員貸付金は、税務上様々な問題が発生する原因になりかねません。また、銀行での融資の審査の際に厳しい評価が下される原因にもなります。
役員貸付金があった場合は、早めに解消する対策を講じましょう。
賃貸対照表を読み解くポイントその4|仮払金や仮受金があるか?
仮払金・仮受金は、その名が示すように「仮に計上しておくもの」です。通常は期末に解消されていなくてはいけません。賃借対照表にこれらの勘定科目が多額に残っていれば、銀行の審査や税務調査の際に必ず確認されます。
また、横領や不正の温床になりやすい科目なので、必ず内容を確認するようにしましょう。
賃貸対照表を読み解くポイントその5|売掛金・買掛金が高い場合は要注意
売上・仕入れと比較して、売掛金・買掛金が高くなっている場合は、注意が必要です。特に、「4か月分以上」に相当する売掛金が計上されている場合は、回収が滞っている可能性が高くなります。経理担当者や税理士に相談し、取引内容を確認しなくてはいけません。
長期間見送ってしまうと、資金繰りが苦しくなってきて、運営に差支えが出てくる可能性が高くなります。
賃貸対照表を読み解くポイントその6|棚卸資産で売却可能なものを探す
棚卸資産が多いということは、保管料が増大したり、保管が長期化することによる品質劣化が起こる可能性があります。これは、会社にとって大きなリスクになって来るでしょう。
棚卸資産回転期間=棚卸資産÷1か月あたりの売上原価(売上原価÷12)
で算出した数字が0.89より大きくなっている場合は要注意です(金融・保険業は除く)。
賃貸対照表を読み解くポイントその7|現金残高と実際の現金有高の相違
会社の運営において、現金管理は重要なことです。基本的なことなので忘れがちですが、現金残高と現金有高に違いが出てくるケースは非常に多いと言われています。
小さな相違であれば修正しやすいですが、その違いが大きくなってくると税務調査の際につつかれてしまう要因になりかねません。現金管理の基本は毎日の称号です。日々チェックするように心がけましょう。
まとめ|PLとBSをしっかりチェックし、チャンスを掴みリスクを回避しよう!
どうでしたか、損益計算書と賃借対照表の読み取り方が理解できたでしょうか。最初の内は大変かもしれませんが、決算書を正確に読み取ることは事業を成功させるうえで基本になってきます。この機会に、きちんとチェックできるようにしておきましょう。
- 今回のポイント
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- 損益計算書で「会社の収益力」、賃借対照表で「財務基盤の状態や会社の安定性」を確認しよう
- 損益計算書で、まず確認しなくてはいけない数値は「当期純利益」
- 営業利益高よりも営業利益率が重要→営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100で計算
- 雑費や雑損失が多い場合は、早めに内容確認をしよう
- 賃借対照表を使い、自己資本率を計算→20%以下であれば、倒産の危険性あり
- 純資産の内、利益余剰金が占める割合を大きくしていくことが重要
- 役員貸付金がある場合は、早めに解消するようにする
- 仮払金や仮受金が多額になっている場合は、税務署や銀行にチェックされやすくなる
- 長期の「売掛金・買掛金」がある場合は財政をひっ迫させる可能性がある→4か月以上は注意
- 棚卸資産回転期間=棚卸資産÷1か月あたりの売上原価(売上原価÷12)で0.89を超える場合は、棚卸資産の売却が可能か検討する
- 現金残高と現金有高の相違が起こらないように、日ごろから照会を心がける
(編集:創業手帳編集部)