【寄稿】日本に住んでいる韓国人の方の相続税申告と相続手続の全て
このページでは、韓国籍を持ったまま日本にお住まいだった在日韓国人の方が亡くなられた場合の、日本と韓国双方の相続手続と相続税申告の仕組みについてご説明します。
目次
相続は被相続人の国籍がある国の民法に基づきます
日本では、外国籍の方が亡くなられた場合には、被相続人の本国の相続法に基づいて相続手続をおこなうよう定められています。韓国の法律でも、被相続人の本国法によると定められているので、結果として、韓国籍の方が亡くなられた場合の相続手続は韓国の相続法が適用されることになります。これを準拠法といいます。
ただし日本でも韓国でも、民法上、被相続人が遺言を作成し、相続が起こった場合に適用する法律を「日本の法律」と定めていた場合には、日本の民法で手続を進めることができるという例外を定めています。
韓国と日本の相続法では、「相続人の範囲」や「法定相続分」が異なりますので手続に注意が必要です。
国籍と準拠法
国籍 | 遺言がない場合 | 遺言で「相続の準拠法を日本の法律」と定めていた場合 |
---|---|---|
韓国籍 | 韓国の法律 | 日本の法律 |
日本国籍(帰化) | 日本の法律 | 日本の法律 |
韓国の民法における法定相続人と相続順位について
韓国の民法における法定相続人と相続順位
- 第1順位 直系卑属(子、孫またはひ孫など)
- 第2順位 直系尊属(親または祖父母など)
- 第3順位 兄弟姉妹
- 第4順位 四親等以内の傍系血族(おじ、おば、甥、姪、いとこなど)
配偶者は常に相続人になります。
第1順位と第2順位と共同相続人となる場合は、その相続人と同順位で相続します。
配偶者がいて、第1順位と第2順位の相続人がいない場合は、配偶者のみが相続人となります。
従いまして、第3順位の親族が相続人となるのは、配偶者と第1~第2順位の相続人がいない場合のみ。第4順位の親族が相続人となるのは、配偶者と第1~第3順位の相続人がいない場合のみとなります。
日本では、配偶者と兄弟姉妹が共同相続人となる場合がありますので、この点が韓国との違いになります。
また、韓国では代襲相続人となるのは、直系卑属、兄弟姉妹の直系卑属(子供に限られず、孫以降に下っていきます)、直系卑属の配偶者、兄弟姉妹の配偶者です。
韓国の法定相続分について
法定相続分は同じ順位の相続人が複数いる場合には均分となります。
配偶者との共同相続となる場合(第1順位、第2順位の場合)、配偶者の相続分は直系卑属・直系尊属の一人当たりの相続分の5割増しとなります。
事例1:配偶者と第一順位の子供二人が相続人となる場合
配偶者が1.5(3/7)、子供1が1(2/7)、子供2が1(2/7)の割合になります。
※日本の場合は配偶者が1/2、子供1が1/4、子供2が1/4の割合になります。
事例2:配偶者と第二順位の親一人が相続人となる場合
配偶者が1.5(3/5)、親が1(2/5)の割合になります。
※日本の場合は配偶者が2/3、親が1/3の割合になります。
韓国の遺産分割協議と戸籍について
日本と韓国の民法は似ており、遺産分割協議(韓国では相続財産分割協議)をおこなう必要があります。
日本の場合と同様、相続人全員の参加が必要であるため、相続人の確定・調査をする必要があります。そのためには、被相続人の「出生から死亡までの連続した戸籍謄本」と「相続人全員の現在の戸籍謄本」に相当するものが必要です。
韓国では2008年に「家族単位」の戸籍制度が廃止され、「個人」単位の「家族関係登録制度」に変更されていますので、2007年までの戸籍謄本と、それ以降の「家族関係登録制度」に基づく登録事項別証明書(基本証明書、家族関係証明書、婚姻関係証明書、養子縁組関係証明書、親養子縁組関係証明書)を集める必要があります。
これらの書類は日本国内でも、韓国大使館総領事部や総領事館で取得することが可能です。
日本にある不動産の相続登記手続
原則以下の書類が一般的に求められます。個別事情によって変わることがありますのでご留意ください。
- 被相続人の韓国の戸籍謄本(出生~死亡に至るまでのもの・その日本語翻訳文も添付)
- 被相続人の「家族関係登録制度」に基づく登録事項別証明書(その日本語翻訳文も添付)
- 被相続人の住民票(除票)
- 被相続人の閉鎖外国人登録原票記載事項証明書(登記簿上の住所とつながらない場合)
- 相続人全員の戸籍謄本(韓国籍の場合は家族関係証明書・基本証明書及びその日本語翻訳文)
- 不動産を相続する方が日本にお住まいの場合、その相続人の住民票
- 固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
韓国にある不動産の相続登記手続
日本の相続と同様に不動産の名義変更に必要な書類を収集し、所有権移転登記申請書を韓国の管轄登記所に提出します。
専門家に依頼する場合には、法務士(日本でいう司法書士)が手続の代行をおこないます。
原則以下の書類が一般的に求められます。個別事情によって変わることがありますのでご留意ください。
- 被相続人の韓国の戸籍謄本(原則、出生~死亡に至るまでのもの)、基本証明書、家族関係証明書
- 被相続人の閉鎖外国人登録原票記載事項証明書(その韓国語翻訳文も添付)
- 相続人全員の家族関係証明書・基本証明書
- 不動産を相続する方が日本にお住まいの場合、住民票(その韓国語翻訳文も添付)、在外国民居住事実証明又は在外国民登録簿謄本
- 不動産を相続する方が日本にお住まいの場合、韓国の不動産登記用登録番号
- 遺産分割協議書
- 相続人が日本にお住まいの場合、領事館の確認書又は公正証書(遺産分割協議書の署名が本人のものであることを証明するもの)
日本における相続税申告について
被相続人が日本にお住まい(住民票がある)で、遺産額が基礎控除を超える場合、日本での相続税申告が必要です。対象となる遺産は、日本国内の財産、韓国の財産が含まれます。
日本の相続税の計算方法は、被相続人や相続人の住所地や国籍によって変わりません。被相続人が外国籍の方であっても、相続税の計算においては日本の民法による法定相続人の数と法定相続分によって相続税を計算します(韓国の法律による法定相続人と法定相続分は、計算上使用しません)。
韓国における相続税申告について
被相続人が日本にお住まい(住民票がある)の場合でも、韓国に所在する財産について韓国における相続税の対象となります(韓国の財産のみが対象となり、日本国内の財産は含まれません)。
韓国の相続税は、相続人の数による相続税額の変動はありません。
相続開始日(ご命日)の月の末日から6ヵ月以内(被相続人または相続人が日本にお住いの場合は9か月以内)に申告をする必要があります。
韓国の相続税は以下の通り計算します。
課税価格
+みなし相続財産(保険金、退職金等)
+相続開始前2年間の使途不明金
+相続開始前10年以内に相続人に贈与した財産
+相続開始前5年以内に相続人以外に贈与した財産
-債務・葬式費用(※)
+経済的実質主義による相続財産
=課税価格
(※)被相続人が非居住者の場合、葬式費用は控除できません。
課税標準額
上記1の課税価格から以下の控除をマイナスします。控除のうち、代表的なものを挙げてみました。
- 基礎控除 2億ウォン(※1)
- 配偶者控除(※2)
- 人的控除(※3)
- 一括控除(※4)
(※1)被相続人が非居住者の場合は、基礎控除のみが認められます。
(※2)配偶者が実際に相続した金額が控除されます。ただし法定相続分(上限30億ウォン)が限度となります。
(※3)子供控除が3,000万ウォン、老年者控除が3,000万ウォン認められます。
(※4)1~3の合計控除額が5億ウォンに満たない場合は5億ウォン控除できます。ただし、配偶者が単独で相続する場合は一括控除の適用はありません。
上記の他に、金融財産控除、災害損失控除、同居住宅相続控除等があります。繰り返しになりますが、被相続人が非居住者(日本にお住まい等)の場合に認められているのは基礎控除のみとなる点に注意が必要です。
相続税額
相続税額は以下の通り計算します。
税率は以下の通りです。
韓国の相続税額
課税標準 | 税率 |
---|---|
1億ウォン以下 | 10% |
1億ウォン超 5億ウォン以下 | 20% |
5億ウォン超 10億ウォン以下 | 30% |
10億ウォン超 30億ウォン以下 | 40% |
30億ウォン超 | 50% |
計算された税額から控除される税額控除には、贈与税額控除、外国納付税額控除、短期再相続に係る税額控除(日本の相次相続控除に相当)、自主申告税額控除(申告期限までに申告した場合には納税額の10%を控除)などがあります。
計算された相続税額について、相続人等がそれぞれ取得した財産の価格に応じて納付義務を負うことになります。
不動産の評価
日本の不動産については、「時価」評価を原則とするものの、実務上は土地は路線価等をベースに、建物は固定資産税評価額をベースに評価するのが一般的です。
韓国においても、原則は「時価」評価とされていますが、時価の算定が難しい場合には、土地は「個別公示地価」、住宅は「個別住宅価格」や「共同住宅価格」(いずれも日本の「固定資産税評価額」に相当する価格)などに基づく簡便的な評価方法が認められています。
外国税額控除について
上記の通り、韓国にある財産については日本でも韓国でも相続税の対象となります。ただし結果として「二重課税」とならないように、「外国税額控除」という制度によって負担が軽減される仕組みがあります。「外国税額控除」によって、韓国でかかった相続税は、日本の相続税の計算の中で控除することができます。
控除額は、以下の1、2のいずれか少ない金額となります。
- 韓国でかかった相続税額
- 日本の相続税額×(韓国の財産の評価額/日本の相続税の対象となった全て(韓国の財産を含む)の財産の評価額)
まとめ
日本にお住まいの韓国人の方の相続手続と相続税申告についてご説明しました。両国の相続手続と相続税の申告手続は、共通点もありますが、異なる点も多いです。実際のお手続の際は、両国の手続に詳しい専門家にご相談されることをお勧めします。ブライト相続では韓国の手続の専門家と連携してワンストップでご対応しますので、ご相談などありましたらお気軽にお問い合わせください。
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この記事を書いた人
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