銀行預金の相続手続き|手続きの流れや必要書類について解説
全国銀行協会の調査(2021年8月)によれば、私たち日本人の97.6%が銀行に預金口座を持っています。
人が亡くなると、その人の預金は相続の対象になります。預金を相続する際には、勝手にお金を引き出すのではなく、口座の名義変更または解約の手続きをおこなわなくてはいけません。
この記事では、銀行預金の相続手続きについて、流れや必要書類を詳しく解説していきます。
遺産分割協議を終えてから預金の相続手続きをする
銀行の預金は私たちにとって最も身近な金融資産のひとつです。人が亡くなると、その人の預金も相続の対象になります。
キャッシュカードが手元にあって遺族がお金を引き出せることもあるかもしれませんが、正式にはきちんと手続きをしなければなりません。
また、遺産分割協議をする前に誰かが預金を払い戻してしまうことは相続人同士のトラブルにつながりかねません。預金の相続手続きを完了させてから引き出すようにしましょう。
もし、葬儀費用などが足りず故人の口座から仮払い制度を利用してお金を引き出すとしても、他の相続人によく相談してからおこないましょう。
相続手続きはいつまでにすればいい?
銀行預金の相続手続きには、「いつまでにやらなくてはならない」といった決まりはありません。中には亡くなってから何年も放置されている預金もあるかもしれません。
ですが、亡くなった方のお金をいつまでも置いておくことは後々のトラブルにつながる可能性もあります。
相続税の申告期限、つまり相続の開始があったことを知った日から10ヵ月以内には相続手続きを済ませることをおすすめします。
相続開始から10ヵ月以内に相続手続きをした方が良い理由
- 相続税を払う際の財源にできる
- 他の相続手続きと、手続きに必要な公的書類を併用できる
- 数年放置しておくと未利用口座管理手数料がかかる場合がある
- 10年間放置していると休眠口座となり、手続きが面倒になる
相続では、遺産分割協議のときに相続財産の把握のため銀行とのやり取りも発生しますので、預金の相続手続きも同時に進めるのが効率的です。
預金の相続手続きの流れ
遺産分割協議をする前に、預金を含めた相続財産調査をおこなう必要があります。
ステップ1:預金がどの銀行にどれだけあるか調べる
①預金口座を把握する
まずは、被相続人が持っていた預金口座を把握することからスタートします。
遺言書や財産目録などで見つけるほか、キャッシュカードや通帳、郵便物などから口座を特定しましょう。
②口座のある銀行に連絡をする
口座のある銀行がわかったら、口座の名義人が亡くなったことを連絡しましょう。相続人が複数いる場合は、相続代表者を決めて、その人が銀行への連絡や諸手続きを進めていきます。
連絡方法としては、以下の方法があります。
- 電話(相続専用ダイヤル)
- Web(専用フォーム)
- 銀行窓口で申し出
金融機関や取引内容によって使える連絡方法が異なりますので、各金融機関のWebサイトで調べたり、電話で聞いたりしてみましょう。連絡を受けた金融機関は、この段階で口座を凍結します。
口座が凍結されると、原則、出金・入金・振込・振替すべての手続きができなくなります。遺族の方がお金を下ろそうとしても自由には下ろせなくなってしまいます(定められた範囲内であれば、遺産分割協議の終わる前でも相続人単独で預金を払い戻すことは可能です)。
給与などの振込入金、クレジットカードや公共料金の自動引き落しなどもできなくなりますので、事前に引き落とし口座や入金口座の変更手続きを取っておきましょう。
③残高証明書を発行してもらう
次に、銀行に残高証明書の発行を依頼しましょう。残高証明書は、相続財産の額を正確に把握するのに役立ちます。
通帳などにより正確な口座残高が分かるのであれば、必ずしも求められる書類ではありませんが、残高証明書にはその銀行の預金や、借入金などの残高がすべて記載されるので、把握していなかった借入金や別口座の発見にもつながります。
相続財産の把握漏れを防ぐことができ、手続きの円滑化や相続税申告の信用度も高まりますので、残高証明書はぜひ取得しましょう。
口座のある支店以外でも手続きはできますので、最寄りの支店で聞いてみてください。
残高証明書発行に必要な書類は次の通りです。
- 口座名義人の死亡を証明する書類(戸籍謄本など)
- 申請者が、相続人・遺言執行者・相続財産管理人のいずれかであることを示す書類(戸籍謄本、遺言書、審判書など)
- 申請者の実印および印鑑証明書
- 残高証明書を取りたい口座の預金通帳、預金証書、キャッシュカード
- 銀行所定の残高証明発行依頼書
銀行によっては他の書類が必要な場合もありますので、事前に問い合わせをしておくと良いでしょう。
残高証明書を発行するときのポイント
- 相続が発生した日=口座名義人が亡くなった日時点での発行を依頼しましょう。
- 定期預金がある場合は、未払利息の証明も依頼しましょう。
- 残高証明書を取得する際には、手数料が必要です。銀行によって金額が異なりますので確認しましょう。
信用金庫などへの出資金について
被相続人が、信用金庫などに口座を持っていた場合、信用金庫などへ出資していることがあります。この出資金も相続財産となります。出資金についても残高証明書の発行を依頼し、確認しましょう
ステップ2:銀行に必要書類を確認する
次に、相続手続きに必要な書類をそれぞれの銀行に確認しましょう。通常は、口座の名義人が亡くなったことを連絡した際(ステップ1②)に確認をしていきます。
書類には、銀行からもらって記入する銀行所定の届出用紙と、公的書類などの自分で揃えなくてはいけない書類の2種類があります。
これらの必要書類は銀行ごとに内容や条件が異なります。特に印鑑証明書などの公的書類は、銀行によって有効期限(発行日からの期限)が異なりますので注意しましょう。
なお、自分で揃える書類については行政書士などの専門家に準備を依頼することもできます。
ステップ3:遺産分割協議で分割内容を決める
相続財産の総額を把握したら、遺産分割協議をおこないましょう。
遺産分割協議では「誰が」「どの財産を」「どれくらい相続するか」を相続人全員で話し合います。必ず遺産分割協議書を作成し、相続人全員が自署捺印をした上で印鑑証明書とセットで保管しておきましょう。
なお、遺言書で相続財産すべての行き先が決まっている場合や相続人が1人の場合は、遺産分割協議は不要です。
相続人が複数いる場合の銀行での相続手続きは、相続手続きには、相続人全員の署名捺印(実印)が必要ですが、相続人の中で代表者を決めてその代表者が銀行への連絡や諸手続きをおこなっていくことが一般的です。
遺産分割協議のときに相続代表者の名前を協議書に書いておくと、その後の手続きがスムーズにおこなえるのでおすすめです。
ステップ4:必要な書類を準備する
次に、ステップ2で確認した必要書類を準備しましょう。ここでは遺言書や遺産分割協議書の有無などのケース別に、基本的な必要書類を記載しています。
①遺言書がある場合
- 遺言書
- 検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外の場合)
- 被相続人の戸籍謄本または全部事項証明(死亡が確認できるもの)
- 預金相続人(遺言執行者がいる場合は遺言執行者)の印鑑証明書
- 遺言執行者の選任審判書謄本(裁判所で遺言執行者が選任されている場合)
- 銀行所定の届出用紙
- キャッシュカードや通帳(証書)
②遺言書がなく、遺産分割協議書がある場合
- 遺産分割協議書(法定相続人全員の署名・捺印があるもの)
- 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡まで連続したもの)
- 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 銀行所定の届出用紙
- キャッシュカードや通帳(証書)
③遺言書がなく、遺産分割協議書がない場合
- 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡まで連続したもの)
- 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 銀行所定の届出用紙
- キャッシュカードや通帳(証書)
④家庭裁判所による調停調書・審判書がある場合
- 家庭裁判所の調停調書謄本または審判書謄本(審判書上確定表示がない場合は、さらに審判確定証明書も必要)
- その預金を相続する人の印鑑証明書
- 銀行所定の届出用紙
- キャッシュカードや通帳(証書)
被相続人と相続人の戸籍謄本などの戸籍関係書類は、法定相続人を全員把握するために必ず必要です。平成29年5月29日から法定相続情報証明制度が開始され、法定相続情報一覧図の写しを戸籍謄本などの束の代わりに提出できるようになりました。
法定相続情報一覧図の写しは複数枚同時に発行できる上、無料で取得できます。利用には最初に手続きが必要ですが、相続手続きの効率化やコストの削減が可能です。
次のような場合は、法定相続情報証明制度の利用も検討すると良いでしょう。制度利用の手続きは、専門家に依頼することもできます。
- いくつもの銀行に預金口座がある
- 相続する財産の種類が多い
- 相続人が多くて戸籍謄本を集めるのが大変
- できるだけ手間をかけたくない
なお、法定相続情報一覧図の写しの利用可否は、各取引銀行へご確認ください。
参照:法務局「法定相続情報証明制度」について
ステップ5:銀行に書類を提出して口座の名義変更・解約手続きをする
必要事項を記入した銀行所定の用紙と必要書類とを銀行に提出します。
戸籍関係書類や印鑑証明書などは、複数の銀行で手続きを取る際に何度も使えるので、銀行へ提出する際には原本を返してほしいと伝えておきましょう。
あとは、銀行が手続きをしてくれるのを待つだけです。手続きが完了したら払い戻しを受けるか、定期預金については相続人名義へ変更し保有するといった流れになります。代表相続人が一括で受領した場合は、受領後、決められた分割内容に基づいて分配をおこないます。
ネット銀行の相続手続
ネット銀行の場合は、通帳がないことが多いので、相続の対象から漏れてしまう可能性があります。
ネット銀行にある財産が相続の対象から漏れないようにするためには、遺言書に書いておくことが一番確実です。ただし、口座の存在が分かっていればキャッシュカードなどがなくても手続きが取れますので、ご家族にネット銀行を伝えておくだけでも有効です。
なお、IDとパスワードは相続手続きには必要ありませんので、書き残しておかない方が良いでしょう。
預金の相続手続きにかかる期間
銀行内での各種書類のチェックや事務手続きには1~2週間かかります。書類の不備があった場合も考えて余裕をもって手続きを進めると安心です。また、書類の準備から口座の名義変更・解約まで行政書士などの専門家に依頼すると確実です。
公社債や投資信託を保有の場合
最近では、預金以外でも公社債や投資信託を銀行に保有している方も増えています。
被相続人が銀行に公社債や投資信託を保有していた場合も、相続手続きをおこないます。預金の相続手続きと異なるのは被相続人の証券口座から相続人名義の証券口座へ公社債・投資信託を移管するという点です。
このため、もし相続人がその銀行に証券口座をもっていない場合は、新たに口座を開設する必要があります。
当座預金と貸金庫
当座預金
当座勘定取引契約は被相続人の死亡によって終了し、当座預金に残高がある場合は相続の対象になります。
貸金庫
貸金庫は、原則、相続人全員の立会いの下で貸金庫を開け、保管されていたものを引き取り、解約します。貸金庫に入っていた財産は相続の対象になります。
遺言書で遺言執行者に貸金庫を開ける権限を与えておくと、相続人全員の同意や立会いがなくても貸金庫を開けることができますので、貸金庫をお持ちの方はご検討ください。
遺産分割前に口座からお金を引き出したい場合
口座名義人の死亡を知ると同時に銀行は口座を凍結します。
本来、預金の相続手続きが完了しないと口座からお金を引き出すことはできません。ただし、被相続人が世帯主で家計の中心だった場合など、残されたご家族が生活に必要な資金を引き出せないといった問題が生じる場合があります。
こうした問題を解消するために、2018年7月の相続法改正で、相続人は定められた範囲内であれば、遺産分割が終わる前でも単独で預金を払い戻せるようになりました(2019年7月1日施行)。
払い戻し額の上限は次の通りです。
- 相続開始時の預金残高の3分の1に、自分の法定相続分を乗じた金額の範囲内
- 銀行ごとに150万円まで
この制度によって払い戻した預金は、払い戻した相続人が遺産の一部の分割によって取得したものとみなされます。
- 遺産分割前の相続預金の払い戻し制度利用に必要な書類は、以下の通りです。
- 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡まで連続したもの)
- 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
- 払い戻しを希望する相続人の印鑑登録証明書
- 銀行所定の払い戻しに関する請求書
銀行によって銀行所定の依頼書や、印鑑証明書などの公的書類の発行日からの期限が異なりますので、詳しくは各銀行にお問い合わせください。
まとめ
銀行での相続手続き全体の流れはシンプルですが、銀行ごとに連絡方法や揃える書類が異なりますので注意しましょう。
また、戸籍謄本や印鑑証明書などの公的書類も準備する必要があります。忙しくて時間が取れない、また手続きが不安という場合は専門家に依頼することも検討してみてはいかがでしょうか。
e税理士ではお近くの専門家との無料相談をご案内することが可能ですので、銀行での相続手続きでお困りの方はお気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人
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