死亡退職金に相続税がかかる場合と所得税・住民税がかかる場合
お勤めの方や経営者の方が亡くなると、死亡退職金が遺族に支給されることがあります。
そして、死亡退職金には相続税等の税金がかかることがあります。
この記事では、死亡退職金について遺族が知っておくべきことについてわかりやすく説明します。
目次
死亡退職金とは?
死亡退職金とは、死亡した労働者・役員・公務員等の遺族に対して雇用主が支払う退職金や功労金のことをいいます。
民間企業の労働者や役員が亡くなった場合に、死亡退職金が支払われるかどうかは、企業によって異なります。
退職金が支給される企業であれば、死亡退職金についても支給している場合がほとんどでしょう。
お勤め先に退職金の制度があるかどうかは、就業規則や退職金規程等を確認することで分かります。
死亡退職金の受取人
死亡退職金の受取人は、通常、職場の就業規則や退職金規程等によって定められています。
就業規則等では、死亡退職金の受取人の優先順位は、職場によって違いがあるものの、およそ次のようなかたちで定められていることが多いでしょう。
- 配偶者
- 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子
- 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた父母
- 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた孫
- 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた祖父母
- 2に該当しない子
- 3に該当しない父母
- 4に該当しない孫
- 5に該当しない祖父母
- 兄弟姉妹
就業規則等に死亡退職金の受取人について定めがない場合は誰が受け取るのでしょうか?
遺言によって死亡退職金の受取人が指定されている場合は、原則として、これに従います。
そうでない場合は、相続財産として遺産分割の対象となる場合があります。
遺産分割については「遺産分割で揉めず損せずスムーズに協議をまとめるための重要ポイント」をご参照ください。
また、株式会社の役員が死亡した場合の退職慰労金の支給については、株主総会の決議が必要です。
また、公務員の死亡退職金については、法令で定められています。
国家公務員については国家公務員退職手当法で、地方公務員については各地方公共団体の条例(「職員の退職手当に関する条例」という名称が多い)で定められています。
退職金請求権を相続した場合は相続財産となる
労働者が退職した後、退職金を受給する前に死亡した場合は、退職金は相続財産となります。
したがって、就業規則等で定められた死亡退職金の受取人が受け取るのではなく、遺産分割の対象となります(ただし、遺言によって取得者が定められている場合は、原則として、これに従います)。
相続放棄をしても死亡退職金は受け取ることができる?
就業規則等によって受取人に指定されている場合は、相続放棄をしても死亡退職金を受け取ることができます。
一方、就業規則等に死亡退職金の定めがない場合は、死亡退職金は相続財産となる場合があり、相続人が受け取ることができますが、この場合は、相続放棄をすると死亡退職金を受け取ることはできなくなります。
死亡退職金は特別受益とされることがある
死亡退職金は特別受益とされる可能性があります。
特別受益とは、相続人が複数いる場合に、一部の相続人が、被相続人(亡くなった人)からの遺贈や贈与によって特別に受けた利益のことです。
特別受益を受けた相続人がいる場合は、遺産分割における当該相続人の取得分を、特別受益を受けた価額に応じて減らす必要があるので、特別受益の価額を相続財産の価額に加えて相続分を算定し、その相続分から特別受益の価額を控除して特別受益者の相続分が算定されます。
算式で表すと以下のようになります。
(算式)
【具体的相続分】=(【遺産総額】+【相続人全員の特別受益の総和】)×【当該相続人の法定相続分又は指定相続分】−【当該相続人の特別受益】
特別受益について詳しくは「特別受益とは?特別受益によって相続分を減らされないための全知識」をご参照ください。
就業規則等の定めによって遺族に死亡退職金が支払われる場合は特別受益とされませんが、相続財産と判断される場合や、相続財産の金額に比べて死亡退職金の額が過大なものである場合には、例外的に特別受益とされるケースがあります。個別の具体的な事情に応じて結論が変わってくるため、ここで一概に論じることは難しいです。
死亡退職金は遺留分を算定するための財産の価額に加えられることがある
死亡退職金は、遺留分を算定するための財産の価額に加えられる可能性があります。
遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった人)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。
被相続人が財産を遺留分権利者以外に生前贈与又は遺贈し、遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合、遺留分権利者は、生前贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求することできます。
死亡退職金を遺留分を算定するための財産の価額に加えて、死亡退職金を受け取れなかった相続人が死亡退職金を受け取った人に遺留分侵害額を請求できるかどうかは、上記の特別受益と同様、個別の具体的な事情に応じて結論が変わってくるため、ここで一概に論じることは難しいです。
死亡退職金にかかる税金
死亡退職金にかかる税金について説明します。
死亡退職金は基本的には相続税の課税対象となる
死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金は相続財産とみなされて相続税の課税対象となります。
受け取る名目にかかわらず実質的に被相続人の退職手当金等として支給される金品は原則として課税対象となります。したがって、現物で支給された場合も含まれます。
なお、死亡後3年以内に支給が確定したものとは次のものをいいます。
- 死亡退職で支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの
- 生前に退職していて、支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの
相続人が受け取った退職手当金等はその全額が相続税の対象となるわけではありません。
全ての相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれません。)が取得した退職手当金等を合計した額が、非課税限度額以下のときは課税されません。
非課税限度額は次の式により計算した額です。
500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額
なお、相続人以外の人が取得した退職手当金等には、非課税の適用はありません。
上の式中の「法定相続人の数」については、次の点にご注意ください。
- 法定相続人の数は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数をいいます。
- 法定相続人の中に養子がいる場合の法定相続人の数に含める養子の数は、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人までとなります。
2について、次のいずれかに当てはまる人は、実の子供として取り扱われますので、すべて法定相続人の数に含まれます。
- 被相続人との特別養子縁組により被相続人の養子となっている人
- 被相続人の配偶者の実の子供で被相続人の養子となっている人
- 被相続人と配偶者の結婚前に特別養子縁組によりその配偶者の養子となっていた人で、被相続人と配偶者の結婚後に被相続人の養子となった人
- 被相続人の実の子供、養子又は直系卑属が既に死亡しているか、相続権を失ったため、その子供などに代わって相続人となった直系卑属。なお、直系卑属とは子供や孫のことです。
死亡後3年経過後に支給が確定した死亡退職金は相続税ではなく所得税がかかる
死亡後3年が経過した後に支給が確定した死亡退職金は、相続税の課税価格計算の基礎に算入されず、遺族の一時所得として所得税・復興特別所得税・住民税の課税対象になります。
弔慰金には原則として相続税はかからない
弔慰金(ちょういきん)、花輪代、葬祭料など(以下「弔慰金等」といいます。)は、本来的にはその性格に照らし、相続税の課税対象にはなりませんが、弔慰金等の名目で相続人に支給されるものでも、実質上、退職金に代えて支払われたと認められる場合は、みなし相続財産として、相続税の課税価格に算入されます。
被相続人の死亡により相続人その他の者が受ける金品が退職手当金等に該当するかどうかは、当該金品が退職給与規程その他これに準ずるものの定めに基づいて受ける場合にはこれにより、その他の場合においては当該被相続人の地位、功労等を考慮し、当該被相続人の雇用主等が営む事業と類似する事業における当該被相続人と同様な地位にある者が受け、又は受けると認められる額等を勘案して判定することになります。
退職手当金等と認められる部分を除き、その弔慰金等が実質退職手当金等に該当するかどうか明確でないものについては、次に掲げる金額を弔慰金等に相当する金額として取り扱い、当該金額を超える部分の金額は退職手当金等として相続税の課税価格に算入します。
- 被相続人の死亡が業務上の死亡であるときは、その雇用主等から受ける弔慰金等のうち、被相続人の死亡当時の賞与以外の普通給与の3年分に相当する金額
- 被相続人の死亡が業務上の死亡でないときは、その雇用主等から受ける弔慰金等のうち、被相続人の死亡当時における賞与以外の普通給与の半年分に相当する金額
なお、普通給与とは、俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当などの合計額をいいます。
まとめ
以上、死亡退職金について説明しました。
支給されるはずの死亡退職金が支給されないとか、死亡退職金を巡って遺族で揉めているという場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
死亡退職金にかかる税金については税理士に相談することをお勧めします。相続に強い税理士をお探しの方はお気軽にご連絡ください。
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この記事を書いた人
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