相続税の申告期限までにする遺産相続手続きの流れと完了までの期間
故人の相続財産を継承する手続き、遺産相続では、いつまでに行わなければならないと定められたもの、明確な期限はないが、なるべく早めに手続きを済ませておいた方が良いものなど、手続きの種類によっても異なります。相続税申告をされる方はこの部分は是非注意してください。
この記事では、遺産相続の流れと、各種手続きの内容、期限についてご説明しています。
遺産相続の手続きの流れ
亡くなられた方の財産(遺産)を引き継ぐ手続きが「遺産相続」です。
相続放棄や所得税の準確定申告、相続税申告、遺留分侵害額請求(旧・遺留分減殺請求)など、遺産相続の手続は一定の期限内に行わないといけないものが多くあります。期限を過ぎてしまうと、特例を受けることができない、高額な延滞税を支払うなどの不利益が及ぶため、その内容を理解して早めに手続きを行うことが重要です。まずは遺産相続の大まかな流れを把握し、必要となる手続きを理解しておきましょう。
遺産相続の大まかな流れ
- 相続人の調査・確定
- 遺言の検索
- 遺言の検認
- 相続財産の調査・確定
- 相続放棄・限定承認(熟慮期間3ヵ月)
- 準確定申告(相続開始後4ヵ月)
- 遺産分割協議(調停・審判)
- 所得税の準確定申告
- 相続税申告、納税(相続開始後10ヵ月)
- 相続税の軽減措置の適用(相続税申告期限後3年)
- 遺留分侵害額請求(旧・遺留分減殺請求)
- 各種相続手続き(名義変更など)
では、主な項目について解説していきます。
遺言書の確認を行う
遺産相続の手続きにあたって最初に行うのが、遺言書の確認です。亡くなった方が遺言書を残していた場合は、原則として遺言の内容に従いながら相続手続きを行うこととなります。遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。遺産リストの作成も同時に行い、亡くなられた方が遺した財産をすべて洗い出すようにします。
相続人を調査する
これから始まる遺産分割協議の前に、遺産相続の権利を持つ相続人を確定させておく必要があります。
一般的には民法で定められた法定相続人が対象となりますが、前妻との間に子どもがいる場合や、過去に養子縁組などをしている場合などには相続の対象となる場合があります。また、相続人が先に亡くなっている場合は代襲相続になるなど、思いもよらなかった人が相続に関わってくる可能性があります。相続人の調査は、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡日までの戸籍を集めることとなります。
相続財産を調査する
誰がどの財産を引き継ぐのかを決める前に、不動産や預貯金など、どのような相続財産があるのかをチェックしなければなりません。預金通帳やカード、権利証、郵便物などを確認しながら、相続財産を洗い出していきます。この調査が終わらないと今後の手続きが始まらないため、相続人が確定した後、速やかに取りかかるようにしてください。
相続放棄・限定承認を検討する
相続放棄とは、亡くなった方の財産について、相続の権利を放棄することです。
遺産の中に借金やその他の負債が含まれていた場合、相続人はそれらも含めて相続してしまうことになります。何も考えずに遺産をそのまま相続する「単純承認」の手続きをとってしまうと、借金だけが残る可能性もあります。
相続をすることで不利益となる場合は「相続放棄」をすることで、被相続人の負の遺産を相続することから免れることが可能です。
また、相続財産のうち、プラスの財産とマイナスの財産、どちらが多いのかがわからない場合などに検討したいのが「限定承認」です。これは相続財産の全体的な調査を行い、財産から債権者や受遺者に必要な支払をした後に、残りがあれば相続人が受け取る手続きのこと。もし借金が上回っていたとしても、借金を相続することはありません。
熟慮期間について
遺産の中に借金がある場合に有効な「相続放棄」や「限定承認」ですが、これらは熟慮期間内に行わなければなりません。熟慮期間は、相続が起こったことを知ってから3ヵ月以内です。
ただし、限定承認や相続放棄を3ヵ月以内に行わなかった理由が「遺産相続が開始したことを知らなかった」「自分には遺産相続がまったくないと思っていた」と信じていた場合は、基本的に熟慮期間のカウントは始まらないようです。また、この熟慮期間は伸張を申請することができます。相続人の戸籍謄本などの必要書類を準備し、家庭裁判所に申し立てるようにしてください。
準確定申告
被相続人が死亡した場合、1月1日から死亡した日までに確定した所得金額及び税額を計算し、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内に申告と納税をする必要があります。これを「準確定申告」といいます。
亡くなられた方が自営業または個人事業主だった場合や、不動産所得があった場合、年金をもらっていて収入金額が400万円を超えていた場合など、準確定申告が必要となるケースもさまざまです。準確定申告をすることで、税金が戻ってくる可能性がありますので期限を守りましょう。
準確定申告の期限が過ぎるとペナルティも
準確定申告は、通常の確定申告と同じく申告と納付の期限があります。
4ヵ月以内の期限をうっかり過ぎてしまうと、無申告税・加算税・延滞税などのペナルティが課せられるため注意が必要です。亡くなられた方の所得を証明する書類を集めたり、必要な手続きに追われたりしていると、思った以上に早く4ヵ月が経ってしまいます。1日も早く手続きを始めるようにしてください。
準確定申告については「遺産相続をしたら準確定申告は必要?申告の内容と手続きを解説」で詳しく解説しています。
遺産分割協議
遺産相続で相続人が複数いた場合、誰がどの遺産を相続するのかを決定する必要があります。そこで相続人全員が集まって行われる話し合いのことを「遺産分割協議」と呼びます。
無事に全員の合意を得ることができれば、遺産分割協議はその役目を終えます。
その際、後でトラブルにならないように決定事項を明文化しておくものが「遺産分割協議書」です。相続人全員が合意したことを表す契約書のようなもので、対外的にも協議の内容を証明することができます。
遺産分割協議の期限
遺産分割協議に法的な期限はありません。しかし、相続税の申告納税との関係で「相続開始後9~10ヵ月以内」に行うのが良いとされています。10ヵ月を過ぎると「減税制度」が適用できなくなるため、結果として税額が上がってしまうことがあります。
相続手続きの期限
役場や法務局、税務署、運輸局、金融機関など、相続手続きではやるべきことが本当にたくさんあります。被相続人が亡くなって慌ただしく過ぎていく時間の中で、さまざまな必要書類の収集や提出を行うには多くの時間を伴うはずです。預金、不動産、株式など、各手続きの内容や期限をしっかりとチェックしておきましょう。
銀行の預貯金に関する手続き期限
被相続人が残した銀行の預貯金にも、当然のごとく相続手続きの期限が発生すると考える人が多いのではないでしょうか。しかし、銀行の預貯金の相続手続きには期限はありません。慌てることなく、名義変更などの手続きを行いましょう。反対に銀行から連絡が来ることもないため、やはり計画性を持って手続きを行うことをお勧めします。なお、預貯金の調査は、各金融機関で残高証明書を発行するようにしましょう。
不動産に関する手続き期限
不動産も、遺産相続に関わる大きな財産のひとつです。この不動産も預貯金と同じく続手続きの期限はありません。
相続登記も急いで行う必要はありませんが、相続した不動産の売却を行う際には、相続登記を済ませておく必要があります。また、今後の売却手続きをスムーズに運ばせるためにも、他の相続人との遺産分割協議書の作成はしっかりと行っておきましょう。
相続税の申告
作業が完了した時点で相続税の申告および納付となります。原則として現金による一括納付が求められ、「物納」や「延納」を申し出ることはできるものの、どちらも厳しい要件が設定されています。
また、代表者による一括納付は贈与と見なされるため、相続人それぞれが納付する必要があります。全員が期限内に納付できるように進めていくようにしましょう。なお、ある一定以上の遺産がなければ相続税は発生しないため、相続税を支払わなければならない人の割合は全体の10%に満たないと言われています。
相続税が発生するケース
相続税が発生するのは、遺産の総額が相続税基礎控除を超える場合です。基礎控除は以下の計算式で算出します。
相続税基礎控除の計算式
- 3,000万円+法定相続人数×600万円
例えば、配偶者と子2人の合計3人が法定相続人となる場合、
- 3,000万円+600万円×3=4,800万円
が基礎控除額となります。つまり、相続財産が4,800万円以下であれば相続税を申告する必要はありません。
相続税の申告期間
遺産相続後に発生する相続税は、相続開始から10ヵ月以内に申告と納税を行わなければなりません。つまり、通常であれば亡くなってから10ヵ月以内ということになります。
もし、相続税の期限を過ぎてしまった場合、無申告加算税や延滞税などの罰則を受けることになります。故人の葬儀や遺品整理などで時間と労力が掛かる時期ですが、常に相続税の期限を意識しておきましょう。
相続税の軽減措置を活用する
相続税の基礎控除を超えると発生する相続税ですが、基礎控除以外にもさまざまな控除や軽減などの制度を活用することができます。その代表的なものが「配偶者控除」です。これは、配偶者の法定相続分もしくは1億6,000万円までの相続分について相続税がかからないというもの。また、貸していた土地を一定の要件を満たす人が相続したときに、最大80%まで相続税を減額してもらえる「小規模宅地の特例」もあります。
詳細が気になる方は「1.6億円までであれば相続税が非課税となる配偶者控除|計算方法と留意点。「小規模宅地等の特例」との併用」を参照してください。
相続税の支払期限
相続税の「配偶者控除」や「小規模宅地」の特例を受けるためには、相続開始後10ヵ月以内に相続税の申告と納税を行わなければなりません。万一、期限が過ぎた場合は特例を受けることができなくなるため注意が必要です。
ただし、期限後に遺産分割をする場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくことで、相続税の控除や軽減制度の適用を受けることができます。
まとめ
遺産相続には多くの手続きが必要になると同時に、それぞれの期限を意識することの重要性がお分かりいただけたことと思います。「気が付いたら大きな借金だけを相続してしまった」ということにならないためにも、まずは、自分や他の相続人に関連する手続きを整理し、早めの行動を心掛けるようにしてください。
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