相続放棄した人がいる場合の相続税申告や計算方法のよくある疑問点まとめ
相続放棄した人がいる場合、相続税はどのように計算すればよいのでしょうか?また、相続放棄した人も相続税を申告しなければならないのでしょうか?どのような添付書類が必要になるのでしょうか?
このような相続放棄と相続税に関する疑問点について、Q&A形式でわかりやすく説明します。
【よくある疑問】相続放棄した人がいる場合の相続税申告
Q:相続放棄をしても相続税申告が必要?
A:相続放棄をした場合は、遺産を相続しないので、通常は相続税がかからず申告も不要です。
しかし、相続放棄をした人が、遺贈によって財産を取得した場合や、みなし相続財産を取得した場合、それから、相続時精算課税適用財産がある場合は、相続税がかかるので、相続税の申告が必要になります(課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合)。
みなし相続財産とは、死亡保険金や死亡退職金等のことをいいます。
また、相続放棄をした人がいる場合は、申告時に「相続放棄申述受理証明書」を添付しなければなりません。
【よくある疑問】相続放棄した人がいる場合の相続税の計算方法
相続放棄した人がいる場合、相続税はどのように計算すればよいでしょうか?
Q:相続放棄者の法定相続分はどうなるか?
A:相続放棄者は、始めから相続人でなかったものとして取り扱われます。
例えば、被相続人(亡くなった人)に配偶者と子供2人がいた場合の法定相続分は、配偶者が2分の1、子供がそれぞれ4分の1ずつです。
このケースにおいて、子供のうち1人が相続放棄した場合の法定相続分は、配偶者が2分の1、相続を承認した子供が2分の1となります。
Q:基礎控除額の計算に用いる「法定相続人の数」に相続放棄者を含めるか?
A:「法定相続人の数」は、相続放棄がなかったものとした場合の法定相続人の数を使います。
つまり、「法定相続人の数」には、相続放棄者が含まれ、先順位の相続人が相続放棄したことによって相続人になった後順位の相続人は含まれません。
Q:相続放棄者が取得した死亡保険金等や死亡退職金等の非課税限度額はどのように計算するか?
A:死亡保険金や死亡退職金は相続財産ではないので、相続放棄をしても受け取ることができます。しかし、相続税の課税上、相続財産とみなされます。
ただし、全額が課税されるのではなく、相続人が受け取った保険金・退職手当金等のうち、次の算式によって計算した金額までの部分については、それぞれ非課税です。
相続放棄者は、「相続人」には該当しません。ただし、「法定相続人の数」は、基礎控除の場合と同様、相続放棄がなかったものとして計算します。
非課税枠は「相続人」が受け取った保険金・退職手当金等に対して設けられているので、相続放棄をした人が全額受け取った場合には非課税枠はありません。
それでは、前掲の設例(配偶者と子供2人が相続人で、子供のうち1人が相続放棄)において、
- 相続放棄しなかった人が保険金を全額受け取ったケース
- 相続放棄した人が保険金を全額受け取ったケース
- 相続放棄をした人もしなかった人も受け取ったケース
の3パターンで課税価格を計算してみます。
相続放棄しなかった人が保険金を全額受け取ったケース
保険金4000万円を配偶者が受け取ったとします。
この場合、保険金4000万円のうち、「500万円×3人×4000万円÷4000万円=1500万円」が非課税となり、保険金の課税価格は「4000万円−1500万円=2500万円」となります。
つまり、保険金を受け取っていない人が相続放棄をしても、影響はありません。
相続放棄した人が保険金を全額受け取ったケース
前述のとおり非課税枠はなく、4000万円全額が課税価格となります。
相続放棄をした人もしなかった人も受け取ったケース
保険金4000万円のうち、配偶者が2000万円を、子供がそれぞれ1000万円ずつを受け取ったとします。
この場合、配偶者が受け取った保険金の非課税限度額は、「500万円×3人×2000万円÷(2000万円+1000万円)=1000万円」となり、課税価格は「2000万円−1000万円=1000万円」となります。
相続放棄をしなかった子供の非課税限度額は、「500万円×3人×1000万円÷(2000万円+1000万円)=500万円」となり、課税価格は「1000万円−500万円=500万円」となります。
相続放棄をした子供が受け取った保険金には非課税枠はないので、課税価格はそのまま1000万円となります。
課税価格の合計額は「1000万円+500万円+1000万円=2500万円」となります。
このケース(保険金4000万円のうち、配偶者が2000万円を、子供がそれぞれ1000万円ずつを受け取ったケース)で、相続放棄がなかった場合についても計算してみましょう。
配偶者の非課税限度額
「500万円×3人×2000万円÷(2000万円+1000万円+1000万円)=750万円」となり、課税価格は「2000万円−750万円=1250万円」となります。
子供の非課税限度額
それぞれ「500万円×3人×1000万円÷(2000万円+1000万円+1000万円)=375万円」となり、課税価格は「1000万円−375万円=625万円」となります。
課税価格の合計額は「1250万円+625万円+625万円=2500万円」となり、相続放棄があった場合と合計額には違いはありませんが、各人の内訳に違いが生じることになります(相続放棄をしなかった人の課税価格が下がり、した人の課税価格が上がります)。
Q:相続放棄者が受けた相続開始前7年以内の贈与財産の価額も課税価格に含めるか?
A:相続放棄者が、遺贈によって財産を取得した場合やみなし相続財産を取得した場合は、相続放棄者が受けた相続開始前7年以内の贈与財産の価額も課税価格に含めます(生前贈与加算)。
生前贈与加算は、令和5年度税制改正により相続発生時点からさかのぼって7年以内の贈与は相続財産に加算するとことになりました。
Q:相続放棄者が負担した葬儀費用の金額を課税価格を計算する際に差し引くことはできるか?
A:相続放棄者が、遺贈によって財産を取得した場合、みなし相続財産を取得した場合または相続時精算課税適用財産がある場合は、葬儀費用を差し引くことができます。
葬儀費用を負担していない相続人の相続財産の価額から、相続放棄者が負担した葬儀費用の金額を差し引くことはできません。
Q:相続税の総額を計算する際、相続放棄者も法定相続分に応じて取得したものと仮定して計算するのか?
A:相続税の総額を計算する際に、相続人が課税遺産総額を法定相続分に応じて取得したものと仮定し、各人ごとの取得金額を計算しますが、相続放棄があった場合も、相続放棄がなかったとものとして、各人ごとの取得金額を計算し、相続税の総額を計算します。
Q:配偶者の税額軽減は相続放棄していても適用できるか?
A:適用できます。
配偶者の税額軽減とは
配偶者の税額の軽減制度は、配偶者だけが利用できる制度です。
配偶者が遺産分割や遺贈により取得した遺産額から、配偶者の法定相続分か1億6000万円のいずれか大きい方の金額を差し引いて、残った金額にのみ課税するという制度です。
遺産額より差し引く金額の方が大きい場合は、課税されません。つまり、法定相続分の範囲内で遺産分割や遺贈を受ける分においては、相続税が課されることはないのです。
Q:未成年者控除は相続放棄していても適用できるか?
A:適用できます。
未成年者控除とは
未成年者の税額控除は、相続人が未成年者の場合に利用できる税の軽減制度です。控除額は年齢によって異なり、年齢が低い方がより大きい金額を控除できるようになっています。
Q:障害者控除は相続放棄していても適用できるか?
A:適用できます。
障害者控除とは
障害者の税額控除は、相続人が85歳未満の障害者の場合に、相続額から一定の金額を差し引く制度です。
Q:相次相続控除は相続放棄していても適用できるか?
A:適用できません。
相次相続控除とは
ある人が亡くなり、その遺産が相続され、それからあまり年月が経たないうちに、今度は先ほどの遺産を相続した人が亡くなって次の相続が行われた場合の一連の相続を相次相続と言うのです。
相次いだ相続の間の期間が10年以内であれば、相続税の控除を受けることができます。この控除のことを相次相続控除と言います。
まとめ
以上、相続放棄をした人がいる場合の相続税の計算方法と申告義務について説明しました。
相続税申告で、納税額が足りないと連絡が来ますが、払いすぎた場合に連絡が来ることはありません。
相続放棄をした人がいる場合は、計算方法が複雑になるので、相続税申告の経験が豊富な税理士に依頼することをお勧めします。税理士をお探しの方はe税理士にまでお気軽にご連絡ください。
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この記事を書いた人
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