相続放棄をしたのに固定資産税の納税通知がきたのはなぜ?|固定資産税の基本と相続放棄との関係を解説
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相続放棄の手続き中に固定資産税の納税通知書が届いたときには、単純相続したと判断されないよう慎重に対応する必要があります。不安があるときには、専門家に相談しましょう。
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相続放棄をしたとき、税金がどのように取り扱われるか正しく知っているでしょうか。被相続人に関わる主な税金には
- 所得税
- 住民税(都道府県民税・市民税)
- 固定資産税
があります。これらは同じ税金ですが、相続放棄をするときには、取り扱いが異なります。
この記事では、相続放棄をしたときの固定資産税の取り扱いや相続放棄をした固定資産に対して納税通知がきたときの対処などを中心に解説します。
目次
相続放棄とは
相続放棄とは、何かの理由で相続人が相続をしたくないと考えるときに、そのプラスの財産とマイナスの財産のすべての財産を放棄することです。相続を放棄する理由としては
- 借金などマイナスの財産がプラスの財産より多い
- 配偶者など特定の相続人により多く相続させたい
- 財産の分散を防ぎたい
- 相続の話し合いなどに時間を使いたくない
- 相続争いを避けたい
などが考えられます。
遺産分割協議で相続放棄をすることになったときは、遺産分割協議書に記すだけでなく、家庭裁判所で相続放棄の手続きをする必要があります(相続放棄の申述)。
相続放棄のメリット・デメリット
相続放棄のメリットは、マイナスの財産を引き継がなくてもよくなったり、相続自体に関わらなくて済んだりすることです。
一方デメリットとしては、相続放棄をするとプラスの財産も相続できなくなるので、被相続人名義の自宅に住んでいる場合は、住むところを失います。また、受理されると撤回はできないため、後から多額の預貯金があるとわかったようなケースでも相続できません。
POINT 単純相続・限定承認とは
遺産を相続する方法は、相続放棄のほかに「単純相続」「限定承認」があります。単純相続とはすべての資産を相続することです。限定承認は、相続したプラスの財産の範囲でマイナスの財産も相続します。限定承認をするには、相続人全員の同意が必要です。
借金を全額返済するのが難しく、手放したくない財産もあるときには、限定承認を選択します。
相続放棄したときの税金
相続放棄をすると多くの場合、滞納分を含む各種税金の支払い義務もその相続人にはなくなります。
例えば、固定資産税以外の主な税金の扱いは以下の通りです。
税の種類 | 相続する場合 | 相続放棄した場合 |
---|---|---|
所得税 | 亡くなったときから4ヵ月以内にその年の所得の申告と納付をおこなう | 申告、納税の義務なし |
市民税 | 1月1日に生きていれば前年の所得を基にその年の納税通知書が届く/年末に亡くなっても、翌年分は課税されない | 納税通知書が届いても支払いは免除 |
このように、相続したときの扱いは違っても、相続放棄したときには、どちらも相続人には引き継がれませんが、固定資産税の場合は異なります。固定資産税が相続放棄できるかどうかは、相続放棄をしたタイミングで決まるのです。
- 被相続人が亡くなった後、年内に相続放棄が完了したとき→相続放棄できる
- 被相続人が亡くなった後、年を跨いで相続放棄が完了したとき→支払い義務がある
例えば、被相続人が11月20日に亡くなったとします。12月20日に相続放棄が完了したときには、固定資産税の相続放棄が可能ですが、1月20日に相続放棄が完了したときには支払い義務があります。
固定資産税とは
市町村税のひとつで、土地・家屋・償却資産にかかる税金をまとめて「固定資産税」といいます。償却資産とは、事業をしている人のパソコンや工具、そのほか備品など時間が経つと価値が減少するとされている資産のことです。
市町村は固定資産課税台帳に、持ち主だけでなく資産の詳細も記録しているので、それを基に資産価値に応じて税額を算出します。
固定資産税の納付は、6月、9月、12月、翌年2月(市町村によってスケジュールは前後します)の4回で、納税額は4月~6月に届く納税通知書でわかります。
POINT 固定資産課税台帳とは
固定資産課税台帳は、「土地課税台帳」「土地補充課税台帳」「家屋課税台帳」「家屋補充課税台帳」「償却資産課税台帳」の5つの台帳の総称です。
完了が年明けになると固定資産税の支払い義務がある理由
固定資産税がほかの税金と異なった扱いになるのは「固定資産税の納税義務がある人」によります。固定資産税の納税義務は、「1月1日に固定資産課税台帳に名前がある人」です。
固定資産課税台帳とは、固定資産の額を算出するために、固定資産の内容やその状況が記載されているものです。
相続放棄の手続きが年をまたぐと、1月1日の時点で固定資産課税台帳に名前があるのは相続人ということになります。そのため、その年の固定資産税は相続人に納税の義務が生じます。
その後、相続放棄が完了すれば、本来はさかのぼって免除されるはずですが、実際には免除されることはありません。相続放棄などの事情に関わらず、1月1日に固定資産課税台帳に名前のある人に課税する考え方を台帳課税主義といいます。
不平等な制度ではないのか
この制度では、手続きをした日ではなく「完了」が基準となるため、被相続人の亡くなった時期によっては、不平等感があると考える向きもあります。
しかし過去の判例では、台帳課税主義が重視されているため、相続放棄をしても固定資産税が課税されるというのが現状です。
POINT 遺産分割協議とは
「遺産分割協議」とは、複数の相続人がいるときに、相続人同士でどのように遺産を分けるか話し合うことです。この結果を書面にしたものを「遺産分割協議書」といいます。
相続放棄では、家庭裁判所に必要書類一式を提出して手続きし、受理をされると「はじめから相続人ではなかった」と認められます。これにより、納税や借金の返済義務のほか、借金の保証人などの「立場」も引き継がなくてよくなるのです。
書類の提出から完了までは、単純なケースで1週間程度です。
別の人が相続したときの固定資産税の支払い
相続放棄をした後に、別の相続人が相続することもあるでしょう。そのときでも、固定資産税の納税義務があるのは、1月1日に固定資産課税台帳に名前があった人です。
そのようなときには、市町村へは台帳に名前のある人が立て替え払いをし、その後、相続した人に請求します。
求償権とは
1月1日に固定資産課税台帳に名前がある人が市町村に立て替え払いをした固定資産税を、実際に相続した人に支払ってもらう権利を「求償権」といいます。その権利を使って相続した人に固定資産税相当の返金を求めることは「求償権の行使」です。
求償権の行使をするときに気をつけること
求償権の行使は法律で認められた権利ですが、実際に行使するときには気をつけるべき点もあります。
あなたが相続放棄をした財産を相続する人は、多くのケースで親戚など今後も付き合いの続く関係の人なのではないでしょうか。そう考えたとき、いきなり法的な手段を行使してしまうと、人間関係のトラブルを招きかねません。
まずは、話し合いをすることで固定資産税相当の返金を求めましょう。そのうえで、支払いを拒否されたときに改めて求償権の行使をすることも可能です。また状況によっては、弁護士など第三者を介することで穏便に支払いがおこなわれることもあります。
登記の名義変更は速やかに
固定資産課税台帳の名義は、そのままにしておくと変更されません。せっかく年内に相続放棄が完了しても1月1日に固定資産課税台帳に名前があると課税対象になってしまいます。登記の名義変更は速やかにおこないましょう。
登記の名義変更は司法書士に依頼するのが一般的です。相続人自身でおこなうこともできますが、書類を揃えるのが難しかったり、法務局へ行かなければならなかったりするためです。
相続登記の手続きの義務化
令和6年4月1日より相続登記の手続きは義務化されています。不動産を相続した人は速やかに手続きをおこないましょう。
相続等により所有権を取得したことを知った日から3年以内に、正当な理由がないのに申請を怠ったとき10万円以下の過料の対象となります。
納税した市町村に固定資産税の還付を請求できるのか
固定資産税にも還付請求権はあります。請求できる期間は納期限の翌日から5年以内。ただし、還付を請求する法律上の根拠が必要です。
一般的な固定資産税の還付請求の理由は、固定資産税の算定間違いです。還付請求をしたときの対応は市町村によって異なるため、相続放棄に伴う還付請求が認められるかどうかの確かな基準はありません。
固定資産税の納付時の注意ポイント
被相続人宛てに固定資産税の納税通知書が届いたときに被相続人の預貯金から支払ってしまうと、単純相続したと判断され、相続放棄ができなくなる恐れがあります。このようなリスクを避けるためにも、まずは専門家に相談することをおすすめします。
相続財産に不動産があると「相続人代表者指定届」が届くことがある
相続が発生し、手続きなどをおこなっているなかで、「相続人代表者指定届」が市町村から届くことがあります。
相続人代表者指定届とは、不動産の持ち主が亡くなった場合に、亡くなった人の代わりに固定資産税の納税通知書を受け取る人(相続人代表者)を指定する届け出です。
相続人代表者となった人は、その後市町村から送られてくる固定資産税の納税通知書を受け取ることとなります。
前述のとおり固定資産税は毎年1月1日時点で不動産を所有している人に課されます。誰が不動産を相続するか決まっていなくても、誰かしらが固定資産税を支払わなければなりません。
市役所から通知が届いたら、指定されている期日までに相続人代表者指定届の届け出をしましょう。その市町村の窓口に直接提出するか、郵送で提出します。
期日が指定されていない場合でも、亡くなった12月末までに相続登記を完了できないようであれば、すみやかに相続人代表者指定届を提出したほうがよいでしょう。
相続放棄後に固定資産税納税通知書が届いたときの対処法
固定資産税課税台帳に登録されているときは、固定資産税を立替払いして、後日、本来の相続人に立替分の請求を行います。固定資産税を払わずにいると遅延金が発生したり、給与や不動産の差し押さえなどがおこなわれることも考えられます。
あわせて翌年以降の課税が生じないよう、法務局で被相続人から本来の相続人へ登記名義変更も行ってもらうにしましょう。
相続放棄について専門家に相談した方が良いケース
次のようなケースでは、専門家への相談を検討したほうがいいでしょう。
- 相続放棄手続き中に納税通知が届いた
- 別の人が相続したのに自分に納税通知が届いた
- 立て替えて納税した分を実際に相続した人が払ってくれない
- 被相続人の滞納分などがあり、高額すぎて払えない
登記の名義変更や相続放棄のための書類に関する代行を依頼したいときには、司法書士に依頼します。費用の相場は、登記の名義変更が5~10万円前後、相続放棄の手続き関係は3~5万円です。
弁護士であれば、手続きをすべて任せたり、立て替えた固定資産税の返金の交渉をしたりするのも含めて依頼できます。費用の相場は、相続放棄の手続きで10~20万円と司法書士より高額になることが多いようです。
相続放棄をしたときの固定資産税に関する疑問
相続放棄をしたときの固定資産税に関する疑問とその答えをご紹介します。
Q.相続放棄をしました。固定資産税の支払い義務もなくなりますか?
相続放棄が完了したタイミングによります。固定資産税の納税義務があるのは、1月1日に固定資産課税台帳に名前のある人です。そのため、年末に被相続人が亡くなり、年が明けてから相続放棄の手続きが完了したケースでは、支払いの義務が残ります。
Q.3月に亡くなった父の相続放棄の手続き中に納税通知書が届きました。支払い義務がありますか?
固定資産税の納税通知書が届くのは4月~6月です。そのため、被相続人が2月~6月に亡くなると、手続き中に固定資産税の納税通知書が届くこともあります。
この時点で支払ってしまうと単純相続したと認めたことになるリスクがあるため、役所に相続放棄を検討中であることを説明して、支払いを保留してください。その後、相続放棄が認められれば支払い義務はありません。
Q.12月に亡くなった父の相続放棄を1月末にしました。固定資産税の納税通知書が届いたのですが、支払い義務がはありますか?
今回のケースでは、1月1日時点で固定資産課税台帳に相続人の名前があることになるので、支払い義務があります。過去の判例によると覆すのは難しいといえるでしょう。
Q.数年前に死んだ父の土地に関する固定資産税の納税通知書が届きました。相続放棄をすることはできますか?また、支払い義務はあるのでしょうか?
状況によっては、相続放棄は認められる可能性があります。例えば
- 亡くなったときに単純相続していない(財産が何もなかった)
- 土地の存在を知らなかった
- 納税通知書が来てから3か月以内である
3つが揃っているケースです。
相続放棄の手続きをして受理され、固定資産課税台帳に名前もないケースでは、固定資産税の支払い義務はありません。ただし、相続放棄のために、①と②の証明が認められない可能性もあるので、専門家に相談した方がいいでしょう。
Q.相続放棄して亡くなった父の事業を叔父が譲渡済みです。それなのに、事業に関する固定資産税の納税通知書が届きました。支払い義務はありますか?
1月1日に固定資産課税台帳に名前があったのであれば納税義務はあなたにあるので、市町村への支払い義務が生じます。そのうえで、叔父様に求償権の行使をします。
ただし、いきなり法的な権利を行使するのではなく、まずは話し合いをしましょう。また、トラブルを避けるためにも、相続する人が決まったら登記の名義変更は速やかにおこないましょう。
まとめ
固定資産税は、ほかの税金と相続放棄をしたときの取り扱いが異なります。相続放棄後にその財産を引き継ぐ人が決まったら、速やかに相続放棄をしましょう。
また、相続放棄の手続き中に固定資産税の納税通知書が届いたときには、単純相続したと判断されないように、慎重に対応する必要もあります。
固定資産税の扱いを誤ったことが理由で相続放棄が却下されるようなことがあると取り返しがつきません。不安があるときには専門家に相談してください。
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この記事を書いた人
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