遺産分割協議がスムーズに!すっきり分かる財産目録の書き方【記入例付き】
財産を保有する方が亡くなると、その財産を家族など特定の方に引き継ぐための手続きをします。財産の内容によっては、期限内に相続放棄の手続きをしたり、相続税の申告をしたりしなければなりません。
この判断の助けになるのが財産目録です。
この記事では、財産目録を作成する理由や注意点についてご紹介します。
この記事はこんな方におすすめ:
「複数人で遺産分割が必要な人」「相続税が気になる人」
- 財産目録を作成すると、相続財産の総額が分かり、遺産分割協議がしやすい
- 相続税申告を含め、必要な手続きがわかりやすくなる
- 生前に作成しておくと、不要な争いを避けられ、節税対策を講じることもできる
目次
財産目録を作成する理由
財産目録とは、被相続人(亡くなった人)の預貯金などのプラスの財産や借金などのマイナスの財産全てを正確に一覧にしてまとめたものです。
財産目録を作成し被相続人の財産が明らかになると、以下のようなメリットがあります。
- 相続放棄・限定承認の判断がしやすい
- 遺産分割協議がスムーズになる
- 相続税の申告が必要かどうかの判断がしやすくなる
メリット1:相続放棄・限定承認の判断がしやすい
身近な方が亡くなってからの3ヵ月というのは、思っている以上に早く過ぎてしまうものです。
しかし、「相続放棄」「限定承認」は、相続が発生してから3ヵ月(「熟慮期間」)という短期間で手続きをする必要があります。
- 相続放棄とは相続の際に被相続人の資産や負債などの権利を一切引き継がず放棄することを言います。
詳しくは「相続放棄した方がいいケースしない方がいいケース、手続きの流れや影響する相続順位を解説」を参照してください。 - 限定承認とは相続した財産の範囲内でのみ、被相続人の債務を受け継ぐということです。
詳しくは「限定承認とは?申し立ての手続き方法やメリット・デメリットをわかりやすく解説」を参照してください。
相続が発生してから故人の財産の調査をする場合、大切な方を亡くして気落ちした状態のために、確認すべき財産を見落としてしまうかもしれません。熟慮期間中に、もしも借金などのマイナスの財産を見落とし、それが返済できないような金額ということになると取り返しがつきません。
財産目録を作成することで、被相続人の財産を客観的に可視化できるので、被相続人の財産を誤って把握することを防ぐことができます。加えて、財産目録の作成をする中で、個人間の貸借など実態の把握がしづらい負債や、不動産や貴金属など評価額の算出に手間がかかりそうなものがあると分かることで、「相続放棄の期間の伸長」の申立てをして、熟慮期間を延長することもできます。
単純相続・相続放棄・限定承認
相続の仕方には3つあります。プラスの財産もマイナスの財産も相続するのが単純承認です。プラスの財産もマイナスの財産も相続しないのが、相続放棄になります。財産の中に自宅などどうしても相続したい財産があるときに、返済できないような借金があるケースで選択するのが、限定承認です。限定承認では、相続したプラスの財産の範囲で、借金などを返済しますが、手続きは複雑です。
メリット2:遺産分割協議がスムーズになる
遺書がなく、相続人が相談して遺産を分けることになったときは「遺産分割協議」が必要になりますが、遺産分割協議をはじめるにあたって最も大切なことの一つは、すべての相続人が財産の全容を把握することです。財産目録で遺産を明確にしておけば、遺産分割の話し合いもスムーズに進められます。
遺産分割協議とは
遺産分割協議は、遺言書がなく、複数の相続人がいるときに遺産をどのように分けるかを話し合うものです。話し合いの結果は「遺産分割協議書」にまとめ、すべての相続人が署名・実印を押印のうえ、印鑑証明書を添付します。相続税の申告や相続した不動産の名義変更などをするときには、遺産分割協議書の提示が必要です。
遺産分割協議については「遺産分割とは?遺産分割協議の準備からやり方、トラブルを防ぐためのポイント」で詳しく解説しています。
メリット3:相続税の申告が必要かどうかの判断がしやすくなる
相続税の申告・納税期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月です。期限内に申告・納税をしなかったときには、加算税・延滞税が課されることがあります。財産目録を作成することで相続税の申告対象であることが早い段階でわかれば、慌てずに手続きを進めることができます。
相続税申告については「相続税はいくらからかかるのか?いくらまで無税なのか?」を参照してください。
また、以下のツールで簡単に調べることができます。
財産目録を作成義務があるケースも⁉
一般的な相続手続きでは、前述のように、メリットを考えて財産目録を作成しますが、財産目録の作成自体が義務付けられているものや、役所などへの提出が必要な場合があります。
遺言執行者が選任されたとき
遺言執行者とは、各相続人の代表として遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のことをいいます。
この場合は、遺言執行者に財産目録の作成が義務付けられています(民法1011条1項)。 管轄の家庭裁判所へ確認しましょう。
限定承認の申述をするとき
財産目録の提出が必要になります。裁判所ホームページから書式をダウンロードして作成してください。
財産目録を記入するときの注意点を項目別に解説
財産目録には預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産もすべて記載します。項目ごとに抑えておきたい内容や情報がありますので、注意点をご紹介します。
なお、資産価値・換金価値のないと思われるものについては記載する必要はありませんが、故人のアルバムなど後日形見分けにしたいものを記載しても問題はありません。
預貯金
預貯金の項目に記すのは
- 金融機関名
- 支店名
- 種別
- 口座番号
- 残高
などです。
残高については、口座のある銀行に死亡日(相続開始日)の日付で残高証明書を発行してもらい、その金額を記載しましょう。 残高証明書には、被相続人がその銀行で取引しているすべての口座について記載されるため、家族の知らない借り入れが発覚するということもあります。通帳があっても発行依頼するようにしましょう。
また、定期預金では、「既経過利息」を上乗せした金額を残高とするので、残高証明書を請求するときに合わせて依頼しましょう。
残高証明書については「相続手続きで残高証明書は必要?通帳のコピーでもいい?」を参照してください。
不動産
不動産の項目で記すのは、
- 物件の所在/地番
- 地目
- 家屋番号
- 種類(土地・建物)/構造
- 面積(床面積・地積)
- 評価額
などです。
これらは、不動産の「登記簿謄本/登記事項証明書」に記載されています。その不動産の登記管轄区域の登記所もしくは、最寄りの登記所で取り寄せることができます。
登記所とは
登記の事務は、不動産の所在地を管轄する法務局若しくは地方法務局若しくはこれらの支局又はこれらの出張所(以下単に「登記所」という。)がつかさどる。 不動産登記法 第6条 引用
不動産に対しては、固定資産税が毎年課され、通知も届きます。また、「権利証(登録済権利証)」などの書類は、きちんと管理している方が多く、被相続人が不動産を所有しているかどうかの確認は比較的しやすいのではないでしょうか。
しかし、それでも不明な点があるときには、土地を所有していると思われる市区町村の役所や、市税・都税事務所へ「名寄帳」を請求すると被相続人が所有している不動産を確認できます。
有価証券
有価証券とは株式・債券・手形・小切手などを言い、この項目で記すのは、
- 品目(銘柄等)
- 金融機関名
- 数量
- 支店名
- 口座番号
- 単価
- 評価額
などです。
複数の証券口座があるときには口座ごとにまとめたり、有価証券の種類ごとにまとめたりするとさらにわかりやすいでしょう。
証券会社に預けているときには、証券会社名、口座番号、その口座の保有銘柄・株数などを記載します。証券会社の口座も銀行の口座のように残高証明書を発行してもらうことが可能です。
ただし、残高証明書では、端株は記載されないため、「配当金支払通知書」といった自宅に届く書類と株数を確認してください。もし、違っていたら、端株は株主名簿管理人である信託銀行等で管理されているので、その信託銀行等にも残高を照会する必要があります。
評価額は、死亡日(相続開始日)の株価を記載しましょう。相続税の申告では、銘柄ごとに、相続開始日・その月の平均価格・前々月の平均価格・前月の平均価格のうちで最も低い単価が適用されます。配当の未払金があるときには、これも相続財産に含まれますので忘れずに記載しましょう。
その他財産
車や貴金属、書画骨董などその他の財産についても忘れずに記載しましょう。
この項目で記すのは、
- 名称(車の場合は、登録番号(ナンバー)、車台番号も)
- 数量
- 評価額
などです。
貴金属などは正式名称を書く必要はありませんが、すべての相続人がわかりやすいように記載しましょう。同じものが複数あるときには、色や製造年など誰にでもわかるような区別の仕方をします。衣類や家財道具などで特別に高価ではないものは、家財一式としてまとめて記載して構いません。
評価額がわかりにくいものは、遺産分割協議では相続人が合意した金額で問題ありませんが、相続税の申告や相続放棄の判断のために、正確な評価額が必要なときには、税理士など専門家に相談してください。
借金・債務
借金の項目で記すのは
- 借入先
- 借入残高
などです。
個人間の借り入れはわかりにくいことが多いので注意が必要です。
債務の項目で記すのは
- 債権者
- 債務額
などです。
葬儀費用や被相続人の入院費用、税金や公共料金の未払分などもこの項目に記載します。
例えば葬儀代が未払いであれば、債権者は葬儀社、債務額は葬儀の代金になります。死亡日(相続開始日)に被相続人名義で未払いのものはすべて記載します。
被相続人の死後、家族が知らなかった借り入れがみつかるケースは珍しくありません。借金をみつけるためには「督促状」、「金銭消費貸借契約書」がないかを確認したり、口座の引き落とし履歴を確認したりします。不安があるときには、専門家に調査を依頼することも検討しましょう。
生命保険
保険種類・保険会社・証券番号・保険金額・受取人などそれぞれの欄を埋めていきます。
生命保険は、相続財産としては取り扱いに気をつける点があります。 契約者(=保険料負担者)・被保険者・受取人の関係によって相続財産になるケースとならないケースとがあるためです。
<被相続人の相続財産となるもの>
契約者(=保険料負担者)が被相続人、被保険者が被相続人以外である生命保険契約
この契約は、被保険者が亡くなっていないので保険金は支払われませんが、被相続人は、この契約を解約して解約返戻金を受け取る権利を持っていましたので、その権利が相続財産となります。
相続税の課税対象となる「生命保険契約に関する権利の価額」は、相続開始時における解約返戻金額で評価されます。死亡保険金ではないので、非課税枠は適用されません。(いわゆる掛捨保険で解約返戻金のないものは評価しません。)
<みなし相続財産となるもの>
契約者(=保険料負担者)・被保険者が被相続人で、被相続人以外が受け取る死亡保険金
この契約(形態)では、死亡保険金は被相続人の財産ではなく、受取人固有の財産となりますが、被相続人が保険料を負担していたため、みなし相続財産として、相続税の課税対象となります。原則、遺産分割協議の対象にはなりませんが、相続税の申告には関係しますので、財産目録に記載しておきましょう。
<相続財産にもみなし相続財産にもならないもの>
被保険者が被相続人で、契約者(=保険料負担者)・受取人が被相続人以外の死亡保険金
被相続人が契約者(=保険料負担者)ではないため、相続財産にもみなし相続財産にもなりません。契約者と受取人が同一人であれば一時所得として所得税・住民税、別人であれば贈与税がかかります。
争族の防止や節税対策にも効果的な財産目録
自分の財産は多くないから、家族がもめることはないだろうと考えている方もいるのではないでしょうか。しかし、データによれば、財産の額に関係なく、遺産分割協議の調停・審判は増えています。
法改正により「自筆証書遺言」もパソコンで作成した財産目録を使用することができるようになり、以前より作成しやすくなりました。生前に遺言と一緒に財産目録を作成しておくことで、ご家族の争いを防げるのではないでしょうか。
また、この記事でもわかるように財産の内容を把握していない人が財産目録を作成するのは大変です。すぐに遺言を作成するのはハードルが高いという方も今から財産目録を作成し、定期的に更新しておくと万が一のときにご家族の負担を減らせるでしょう。 さらに財産目録を作成した結果、相続税が課税されることが事前にわかっていれば、節税対策を講じることもできるので、ご家族により多くの財産を残すことができます。
財産目録の作成を専門家に相談した方がいいケース
次のようなケースでは専門家に相談する方がいいでしょう。
- 時間が取れないので手伝ってほしい
- 財産が多すぎて把握しきれない
- 不動産の評価額を正確に知りたい
- 単元未満株式の照会をして欲しい
- マイナスの財産を調査して欲しい
財産の評価額や相続税の計算を依頼したいときには税理士、手続きに関する書類の作成を依頼したいときは行政書士、相続登記などを依頼したいときには司法書士、もめごとが起きそうな遺産分割協議の立ち合いなどを依頼したいときには弁護士、とそれぞれ必要に応じた専門家に依頼するといいでしょう。
料金は依頼内容や依頼する事務所によって異なりますので、無料相談などを上手に活用して、ご自分の依頼したい内容に合った事務所をみつけてください。
財産目録に関するよくある疑問
財産目録に関するよくある疑問とその答えをご紹介します。
Q:亡くなった父の銀行口座がどこにあるのかわからない
通帳やキャッシュカードを探してみましょう。また、パソコンのブックマークやスマートフォンのアプリ、ダイレクトメールなども確認してください。ゆうちょ銀行などでは、口座の有無の調査(現存調査)を依頼することもできます。金融機関に問い合わせて確認する方法もあります。
Q:亡くなった父に借金があったのか調べたい
金銭消費貸借契約書や借用書が保管されていないか、督促状が届かないか、などを確認してください。信用情報機関に問い合わせて調べることもできます。借入先によっては、定期的に口座から引き落とされていることがあるので、口座の履歴もチェックしましょう。個人間の借り入れに関しては、借用書がないケースも多いので注意が必要です。
Q:不動産の評価額がわからない
正確な評価額が必要なときは、税理士に依頼しましょう。あくまでも目安ということであれば、固定資産税評価額であることを明記して、固定資産税評価額を記載することも可能です。固定資産税評価額は固定資産税の課税明細書に記載されています。
Q:財産目録はいつまでに作成すればいい?
相続放棄や限定承認をする可能性があるなら3ヵ月の期限に間に合うようにしてください。相続税の申告・納税は10ヵ月以内にしなければなりませんので、対象になるようであれば、それまでに遺産分割協議を終えて申告・納税の準備ができるように財産目録を作成します。
まとめ
財産目録作成には以下のようなメリットがあります。
- 限られた時間の中で相続放棄・限定承認の判断が的確にできる
- 財産の価値がわかることで遺産分割の公平性を保てる
- 遺産分割協議がスムーズになることで、相続人同士の争いを避けられる
- 相続税の課税対象であることが早い段階でわかるので準備がしやすい
また、自分自身の財産目録を生前に作成しておけば、相続に関わる家族の負担や争いの原因を減らすことも可能です。この機会にご自身の財産について、財産目録を作成してみてはいかがでしょうか。
財産が多く相続人では把握しきれないときや評価額がわからず困ったときなどには専門家に相談するのがいいでしょう。
e税理士ではお近くの専門家との無料相談をご案内することが可能です。遺言書作成や相続税申告、財産目録の作成でお困りの方はお気軽にご相談ください。
ご希望の地域の専門家を探す
ご相談される方のお住いの地域、遠く離れたご実家の近くなど、ご希望に応じてお選びください。
この記事を書いた人
相続専門のポータルサイト「いい相続」は、相続でお悩みの方に、全国の税理士・行政書士・司法書士・弁護士など相続に強い、経験豊富な専門家をお引き合わせするサービスです。
「遺産相続ガイド」では、遺産分割や相続手続に関する役立つ情報を「いい相続」編集スタッフがお届けしています。また「いい相続」では、相続に関連する有資格者の皆様に、監修のご協力をいただいています。
▶ いい相続とは
▶ 監修者紹介 | いい相続