実績のない創業期の資金調達には、公庫融資・制度融資、クラウドファインディングなどの手段が挙げられます。これらの手段は、非常に有力な資金調達のツールになるので、利用できるならば利用するに越したことはありません。
しかし、上記の手段だけではどうしても利用状況が限られてしまうことも事実です。今回はあまり知られていない資金調達手段である、「私募債」について解説してみようと思います。この私募債のやり方を覚えることで、今までに得られていなかったメリットを享受することが可能になるかもしれません。参考にしてください。
あまり知られていない私募債をわかりやすく解説
そもそも私募債という制度を知らないという事業者も多いのではないでしょうか。私募債とは「私」が「募る」「債」、つまり「小規模の社債」のだと理解してもらってもいいと思います。
創業期のベンチャー企業に特にオススメな「少人数私募債」は
- 募集人数が50人以下の少人数に発行
- 金額合計が1億円以下
で想定されている社債です。
一般的に大規模な「社債」を発行するためには取引所を経由する等、多くの手続きが必要です。しかし小規模社債である「私募債」を発行する場合、公募社債に比べると手続きが簡略化されます。しかも、ベンチャーや小規模企業でも実施が可能なのですから、私募債は魅力的な資金調達ツールと言えるでしょう。
また、私募債大きな特徴として
- 社債(私募債)を買ってもらえる対象は、身内・知人・取引先と言った「起業家に関係がある人物」が中心
- 通常は利息のみを毎月介していき、償還期限で元本を返還する方式である
といったことが挙げられます。つまり、買ってもらえる人が限定され、毎月の返済額は少ないが、償還期限で大きな返済が必要になるということです。これらの特徴をきちんと理解し、うまく運用することが出来れば、私募債を使うことは「大きな武器」として効力を発揮する可能性が高くなります。
私募債のメリットとデメリットを理解し上手く運用しよう
私募債のことがなんとなく理解できたところで、運用のメリット・デメリットを理解し、実際にどう使ったらいいかを覚えていきましょう。どんな便利なツールも、使い方を知らなければ「猫に小判」。それどころか大きな負債を抱えてしまうことにもなりかねません。
私募債を利用することのメリットとデメリット
《私募債のメリット》
- 公募債と比べて規模が小さくいため、監督機関への申請・証券会社への依頼を必要としない→コストを安く抑えられる
- 直接募集のため、償還期限や方法などの交渉がしやすい
- 一定の契約や条件を基盤にするため、借り手・貸し手ともに安心感が得られやすい
- 金銭賃借契約書の作成がいらない→貸し手の作成の手間、借り手の契約確認の手間が省略される
つまり「私募債」は、個人の貸付と実態はほとんど変わらないが、ひとつ一つの取引が簡略化される上に、複数の人に同じ条件で取引されるため、借り手貸し手双方とも納得のいきやすい安心感がある条件で行われるというメリットがあるのです。
《私募債のデメリット》
・償還期限が、基本的に2年から7年と限定されている
つまり私募債には、徐々にキャッシュフローの改善目的では使えず、開発資金などの「将来の投資」のための運用のように、使用目的が限られてしまうというデメリットがあります。
私募債の正しい利用方法とは?!
では上記のことを理解したうえで、私募債を使うにはどうしたらいいのでしょうか。私募債の利用の仕方は、銀行の借り入れに似ています。実際には
- 取締役会を開く
- キャッシュフローの明確な回しかたのプランを示した事業計画書を提出
- 資金を貸してもらう
と言ったような手順に必要です。総務だけで処理しても十分であると言われていますが、税理士や弁護士に関わってもらう方が安全ではないでしょうか。相談することをオススメします。
この流れをみて気付いた人もいるかもしれませんが、他の融資と同じように、私募債の発行においても「事業計画書」が一番重要です。融資者に対して「償還期限までにどのようなキャッシュフローで変換するのか」ということが理解してもらえなければ、お金を出してもらえるわけがありません。
複数の人に対して納得してもらえるような事業計画を立てなくてはいけないのですから、ある意味銀行に融資をお願いするよりも難しくなってくる部分もあると思います。
まとめ|健全なキャッシュフローを計画し私募債を有効に使おう!
どうでしたか。私募債がどんなものか解ったでしょうか。私募債は利用目的が限定され、綿密な事業計画書が必要になりますが、比較的手間がかからず資金調達が可能な便利なツールです。また、事業計画を多くの人に見てもらい、練り直すチャンスになる可能性もあります。もし資金調達の必要があるなら、検討してみてもいいのではないでしょうか。
- 今回のポイント
-
- 私募債は、発行する手間を簡略化した「小規模な社債」である
- 私募債は、一般的に償還期限まで利息のみの返還になり、償還期限で元本を返還する
- 私募債には、社債にくらべ手間が少なくコストも削減可能で、償還期限の交渉などもしやすいというメリットがある
- 私募債は償還期限が2年から7年と限られているため、キャッシュフロー改善のための融資には向いておらず、利用目的が限定されるというデメリットがある
- 私募債の発行は総務だけでも可能だが、トラブル回避のために税理士や弁護士に関わってもらう方がオススメである
- 私募債の発行に関しても、綿密な事業計画書が必要になる
(編集:創業手帳編集部)