相続税申告は「相続専門税理士」に依頼した方が本当にいいのか?
相続税申告を依頼する税理士を探していると、「相続専門の税理士に依頼すべき」という話を耳にすることがあることでしょう。
専門の税理士なら確かに良さそうに思われるかもしれません。
それでは、相続専門税理士に依頼すると、どのような点で良いのでしょうか?
デメリットは無いのでしょうか?
この記事では、相続専門税理士について詳しく丁寧にわかりやすく説明します。
是非、参考にしてください。
「相続専門税理士」とは?
「相続専門税理士」とは、相続税申告や相続税対策を専門とする税理士のことです。
税理士業界全体でみると、法人税や消費税、所得税の申告等が大半を占めており、相続税はあまり多くありません。
多くの税理士にとって、相続税申告は、年に1度あるかないかといった程度です。
一方、相続専門税理士は、法人税等の申告はほとんど取り扱わず、相続税申告に特化し、年間50件以上の相続税申告に携わります。
「相続専門税理士」と「相続専門税理士法人」
税理士事務所には、個人事務所と税理士法人があります。
個人事務所は通常一人の税理士によって運営されており、税理士法人は通常複数の税理士によって運営されている税理士事務所です。
個人事務所の場合は、「税理士個人=事務所」なので、その税理士が相続専門であれば、事務所自体が相続専門であると言えます。
一方、税理士法人の場合は、所属する税理士全員が相続専門である「相続専門税理士法人」である場合と、相続専門税理士とそうではない税理士とが混在する場合とがあります。
後者であっても、相続専門税理士が対応に当たるなら問題ないでしょう。
ただし、集客のために相続専門を謳っておきながら、実際は、相続専門税理士がいないというケースもあり得るので、気を付けましょう
例えば、一つの税理士事務所が「相続専門 ○○税理士事務所」と「顧問税理士なら○○税理士事務所」という2つのウェブサイトを開設していることがあるのです。
また、「相続税○○センター」というような屋号でウェブサイトを開設している事務所もありますが、屋号に惑わされず、相続専門税理士がいるかどうかという内実を見るようにしましょう(なお、このような屋号を付けること自体は必ずしも悪いこととは言えません)。
謳い文句に惑わされず真の相続専門税理士を選ぶ方法については、後述の「相続専門税理士の選び方」の項目をご参照ください。
「相続専門税理士」に相続税申告を依頼するメリット
相続税に精通した相続専門税理士に依頼する主なメリットとして、次のような点が挙げられます。
- 税務調査が入る確率を下げられる可能性がある
- 依頼者にかかる手間をより一層削減できることがある
- 相続税額を低くできる可能性がある
- 税理士報酬が安くなることが比較的多い
- 申告期限まであまり猶予がなくても対応してくれることが比較的多い
それぞれの点について、以下、説明します。
税務調査が入る確率を下げられる可能性がある
税務調査とは、申告された税額や申告しなかったことが正しいかどうかを確認するための税務署の調査のことです。
税務署は、申告内容を鵜呑みするわけではありません。
申告内容に疑義がある場合等はまず事前調査を行い、それでも疑義が払拭されない場合等は、税務調査(実地調査)を行います。
税務調査の対象となると、次のような不利益があります。
- 対応に時間がとられる
- 対応を税理士に依頼する場合は税理士報酬がかかる
- 申告漏れや評価・計算の誤りが見つかった場合、過少申告加算税や延滞税といった附帯税が余計にかかる
税務調査について詳しくは「相続税の税務調査の実態と対策〜何年後?通帳やタンス預金も対象?」をご参照ください。
税務調査の対象となることは避けたいものですが、この点、「書面添付制度」を活用することによって税務調査が入る確率を下げられる可能性があります。
書面添付制度とは、計算事項等を記載した書面を税理士が作成して申告書に添付した場合は、税務調査前に、まず、税理士に対して、添付された書面の記載事項について意見を述べる機会が与えられるというものです。
そして、この段階で疑義が解消し、結果として調査の必要性がないと認められた場合には、調査に至らないこともあり得ます。
書面添付制度は、すべての税理士が利用できますが、全員が利用しているわけではありません。
書面添付制度は、依頼者にとってはメリットが大きいのですが、税理士にとっては負担が大きいためです。
書面添付制度を利用すると、単純に書類作成の手間も増えますし、相続税額の算定に至る前の過程を事細かくしたためるわけですから、算定額だけでなく、その過程の一つ一つにおいても間違いがあってはならず、税理士の責任が重くなるのです。
このような事情から、相続税申告の経験の浅い税理士は書面添付制度の利用を嫌がる傾向があります。
また、書面添付制度は、利用しさえすれば税務調査の確率を下げられるというもののではなく、税務署の疑義を解消しうる内容の書面が作成できなければ、利用しても意味がありません。
この点、相続税に強い相続専門税理士であれば、書面添付制度を効果的に活用し、税務調査が入る確率を下げられる可能性があるでしょう。
依頼者にかかる手間をより一層削減できることがある
相続税申告は税理士に依頼すると手間が省けますが、とりわけ相続専門税理士では、それまで積み重ねた改善によってブラッシュアップされた、より無駄のないスキームが調っていることが期待できるでしょう。
具体的には、例えば、次のような点が挙げられます。
- テレビ電話やオンラインによる面談を選択でき、来所不要
- 説明がわかりやすく、また、依頼者への質問・確認の仕方も要領を得ている
- 必要書類の収集も依頼可能
- 自分で収集する場合も、説明書が用意されていたり、口頭で説明してくれたりする
- 前述のとおり、書面添付制度により税務調査の対象となる確率を下げられる
- 他の相続専門家と連携しており、相続手続き等も並行して進めることができる
相続税額を低くできる可能性がある
相続税には特に土地の評価に関して様々な特例が用意されており、それらを駆使することによって、税額を大きく下げられる可能性があります。
相続を専門としていない一般の税理士では特例を余すところなく適用し尽くすことが難しいこともあり、特に土地がある場合は、相続専門税理士の手腕によって、相続税額を大きく下げられる可能性があるのです。
また、誰がどの財産を相続するかによって適用できる特例が変わってくることがあり、さらに、亡くなった人に配偶者がいる場合は、二次相続(今回亡くなった人の配偶者が亡くなった時の相続)の場合の相続税までシミュレーションしたうえで一次相続の遺産分割方法を検討することが、相続税の節税にとって有用です。
相続専門税理士は、遺産分割方法ごとの相続税額を、二次相続も併せてシミュレーションしてくれます。
二次相続について詳しくは「二次相続対策をシミュレーションして万全にするために必要な全知識」をご参照ください。
税理士報酬が安くなることが比較的多い
税理士報酬は、税理士の人件費です。
一般に、税理士にとって時間がかかる案件ほど、報酬が高くなるように設定されています。
相続税申告に慣れていない一般の税理士は、時間がかかってしまうため、報酬を高く設定する傾向があります。
また、税理士でなくても対応できる部分については、通常、事務員が担当することによって、税理士報酬を安く設定することができますが(税理士よりも事務員の方が人件費が安いため)、相続税申告に慣れていない一般の税理士事務所では、事務員も相続税申告に慣れていないため、事務員に任せられる部分があまりなく、大部分を税理士自ら対応せざるを得ないため、このことも報酬が高くなる一因となり得ます。
なお、相続税申告の経験が乏しい税理士は、どのような場合にどのくらい手間が掛かるかが把握できていないため、相続税申告の料金表がないか、又はあまり詳細に定められておらず、個別見積もりとしていることが多いことも特徴と言えるでしょう。
申告期限まであまり猶予がなくても対応してくれることが比較的多い
相続税申告には期限があります(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内)。
相続専門税理士は、相続税申告に慣れており、短期間で申告手続きを終えることができるため、申告期限まであまり猶予がなくても対応してくれることが比較的多いです。
ただし、いびつな形状の土地がある場合等、評価に時間がかかることもあるため、相続専門税理士に依頼する場合でも、なるべく早く相談しておくことをお勧めします。
最低でも申告期限の3か月前にはなるべく依頼するようにしましょう。
「相続専門税理士」のデメリット
それでは、相続専門税理士に相続税申告を依頼するデメリットはないのでしょうか?
結論から言ってしまうと、デメリットは特にありません。
費用についても、相続専門税理士が高いということもなく、むしろ、前述のとおり、安いことの方が多いでしょう。
「相続専門税理士」の選び方
前述のとおり、相続専門を謳っていても、分野ごとにウェブサイトや屋号を使い分けていて、実際は、相続専門ではない税理士もいます。
相続専門であることを確認する方法として、次の点が挙げられます。
- 税理士事務所の名称と代表税理士の氏名でweb検索し、相続専門である旨が明示されているサイトが1番にヒットし、かつ、2位以下に相続以外の分野を主としたウェブサイトがヒットしないこと
- 明確な料金表があること
- 書面添付制度に対応していること
- セカンドオピニオンを嫌がらないこと
- 遺産分割方法を変更した場合や、二次相続を含めて考えた場合の相続税のシミュレーションについても相談に応じてくれること
- 相続専門サイトに掲載されていること
以下、それぞれについて説明します。
web検索の活用
前述のとおり、相続専門と謳っていても、分野ごとにウェブサイトや屋号を使い分けていて、実際は、相続専門ではない税理士もいます。
したがって、相続以外に分野(例えば、企業顧問など)に特化したウェブサイトを別に開設していないかどうかをチェックするため、検索エンジンで、税理士事務所の名称や代表税理士の氏名をキーワードに設定して検索してみるとよいでしょう。
明確な料金表があること
税理士報酬は税理士(及び事務員)の人件費といえます。
したがって、通常、手間のかかる案件ほど税理士報酬が高くなるように料金表が設定されています。
相続税申告に精通している税理士は、どのようなケースに手間がかかるかを把握できているので、追加料金の生じない明確な料金を提示することができます。
一方、相続税申告に精通していない税理士は、料金表はあるものの、追加料金がかかるケースが明示されていなかったり、見積もりというかたちに逃げる傾向があります。
書面添付制度に対応していること
前述のとおり、書面添付制度を有効に活用できれば、税務調査の対象となる可能性が下がる場合もあるでしょう。書面添付制度に対応している税理士の方が、対応していない税理士よりも相続に強いと言えそうです。
ただし、書面添付制度は、利用すれば必ず税務調査の可能性を減らせるわけではなく、どのような書面を添付するかが重要です。
したがって、書面添付制度に対応しているからといって、それだけで相続税に強いと判断することはできません。
セカンドオピニオンを嫌がらないこと
相続税額は依頼した税理士によって大きく異なることがあります。
そのため、相続税額が算定されたら、それをもって他の税理士にセカンドオピニオンを聴くことで、さらなる節税の余地を見出せることもあります。
依頼者がセカンドオピニオンを聴くことを嫌がる税理士は、算定結果に対する自信のなさの表れかもしれません。
初回の相談時に、セカンドオピニオンを聴くことも検討している旨を伝えて反応を見ることで、税理士の自信のほどを知ることも可能でしょう。
遺産分割のシミュレーションについても相談に応じてくれること
遺産分割の方法によって適用できる特例が変わってくるため、相続税額も変わってきます。
相続税に強い専門税理士なら、どのように遺産分割したら相続税がいくらになるのかシミュレーションをして遺産分割方法についてのアドバイスをしてくれるでしょう。
また、相続人が配偶者と子という組み合わせの場合は特に、二次相続の相続税まで考えて遺産分割方法を決定した方がよいのですが、相続税に強い専門税理士なら、その点についてもシミュレーションしてアドバイスをくれるはずです。
相続専門サイトに掲載されていること
相続専門サイトから相続専門税理士を探すことも一つの手段でしょう。
ただし、相続専門サイトに掲載されている税理士が、必ずしも相続専門であるとは限らないので、その点は、上記の観点からも併せてチェックする必要があるでしょう。
まとめ
以上、相続専門税理士について説明しました。
相続税申告は相続専門税理士に相談することをお勧めします。
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この記事を書いた人
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